知識の'柔らかさ'計量の試みとその意義
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概要
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知識は人間の知的活動の成果であり、文化や科学の本体である。本報告は、この知識の特性を定量的に捉える試みである。試みは、〈人文科学、自然科学を通じてその「知識」は「普遍と個別」の二面から成る〉という認識と、〈この二面は、知識の表現媒体である語彙の出現の様相で分かる〉という考えに立っている。実際に科学および国文学資料の語彙の出現頻度を解析した結果は、出現頻度上位の語彙と下位のものとがそれぞれこの二面に対応することを具体的に示した。とくに最上位から数えて数番までの語彙群と、最下位から上に向けて数番の語彙群は、順位に対して厳密な指数関係に立つことが明かになった。指数関係であるので、上位の数語は全語彙の出現頻度の過半を占めることになる。すなわち、それらは全体に相関することになるので、これらの語彙が優越するドキュメントは柔らかいと定義し得ると考える。すなわち出現頻度から普遍的ないし個別的語彙の別を知り、その相対比率で知識の'柔らかさ'が計量し得ると考えるのである。以上の晋遍と個別の語彙の分類は、それらが均一分散であるとして見た結果である。こうして分類された普遍性ないし個別性の語彙群について、さらにそれらの間の相関を調べたところ、化学語彙ではその専門分科の特性に、国文学資料では情報表現の特性に対応する二次の相関の存在が見出された。これは、知識の高次構造の指示である。すなわち、〈語彙の解析が、知識の専門分科の形成ないし、知識の表現特性の把握〉に及ぶことを示唆するのである。あらためて全体を見直すと、最初に見出された相関は成分間の相関が弱い段階であり、各成分は個別、独立に近いとされる。ただし、相関はあるので外力の影響は全体に吸収分散され、その意昧でこの系は〈柔らかい〉ことになる。近似的には系の全成分は一様、均一である。これに対して第二段階では成分間の相関はある限度を超えた状態であり、「知識」にクラスター(群、ないし専門と言ってもよい)構造が生まれることになる。この「知識における構造の認識」は、広く見ると、自然界の基本現象として他にも見出される。かくて、ここで述べた相関による「知識の柔らかさ」の計量は、人文科学と自然科学を通ずる「自然原理」へのアプローチになると考えられる。これをより一般的な解析演算路に乗せることを今後の情報知識学の課題として努力したい。
- 情報知識学会の論文
- 1999-05-22
著者
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