音波の非線形現象とその不思議
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概要
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非線形現象には奇妙なことが多い。確かに従来からの線形の常識ではそのように見えるが、自然現象は本来非線形であるとの立場から見れば、奇妙な現象こそ寧ろ自然の本質と見ることが出来るだろう。すなわち、音波の波動方程式は本来非線形であるということは既によく知られている事実であるが、人間の思考形態が線形に適しているか、あるいは線形の方が理解が簡単なためか、非線形項を高次の無限小という理由で方程式から除去し、線形方程式に直して解析するのが通常である。一方、実験技術が進歩し測定誤差が小さくなるにつれて、今まで隠れていた非線形に起因する現象が次第に出現してきた。例をあげれば、正弦波音圧を一周期にわたって積分すれば当然零になる筈のものが、実は非線形の歪に伴って音圧の2乗の項が発生し、積分の結果、直流の圧力が現われる。すなわち、音響放射圧である。このように非線形は2次の現象であるが、これらの多くは非線形波形歪に起因すると見てよく、歪の出現の仕方によって種々の現象が見られ、また種々の効果が現われる。パラメトリック増幅現象ですらもこの立場から理解することが出来る。現在、非線形現象として知られているものに次のものがある。 (1)音響放射圧および音響流 (2)キャビテーションを含む気泡力学 (3)非線形波形歪 (4)パラメトリック増幅 (5)音響ソリトンの発生と伝搬。 放射圧は既によく知られている現象であるが、最近では放射圧に伴う音響流を利用して、微小物体を非接触で操作するマイクロマニピュレーション技術の開発が鋭意行われている。キャビテーションも古くから研究されている分野であるが、微小気泡の超音波に対する応答が非常に強い非線形を示すことが見い出されて以来、気泡力学の立場からの基礎研究と、血中に注入したマイクロカプセルからの強い高調波散乱を利用した生体内映像の鮮明化の研究が強力に進められている。一方、非線形波形歪と高調波の発生については、その基本はほぼ確立された。しかし多くの非線形現象を、高調波発生に起因するとの立場から統一的に解釈することは、現象を理解する上で有益と考えられる。ソリトンは現在基礎研究の最中で、今後どのような発展が期待されるかまだよく分からない分野であるが、場合によっては将来の研究テーマの宝庫となり得るかも知れない。しかし、現在ではまだ具体的な応用のための研究は皆無に等しく、ただ血管内血流のソリトン化の可能性について行なわれたことがあるに過ぎない。何はともあれ音響ソリトンは、他分野で研究されているそれと同様に音波が孤立した一つの粒子のように振る舞い、それ自体非常に不思議な現象であるが、自然界にはソリトンが関与する現象が多々あるものと予測される。本論文では非線形波形歪を高調波仮想音源の立場から、種々の非線形現象の不思議を考えて見たい。
- 社団法人電子情報通信学会の論文
- 1997-08-13
著者
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