大正期の新中間層における主婦の教育意識と生活行動 : 雑誌『主婦之友』を手掛かりとして
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概要
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本稿は,第一次世界大戦後から大正期末までの期間に刊行された雑誌『主婦之友』第3巻1号から第10巻12号(大正8〜15年)における,新中間層主婦の生活体験記事を用い,子どもに向けられた主婦の教育的関心はどのような生活行動として展開したのか,そして主婦の生活展開のあり方とどのように関わったのかを分析した.その結果,以下の知見が得られた.(1)主婦は自分のしつけこそが我が子にとって望ましい教育であると認識し,子どもの世話役割から他者を排除する傾向がみられた.(2)主婦は生活環境を教育的に整備することにより子どもが感化されることを期待し,一方では勤勉かつ規律的な家事行動を行い,もう一方では子どもを教育的な生活環境に囲い込み,あるいはそのための生活水準の向上を目指して節約に励む,などの行動をとる傾向がみられた.(3)主婦は自分が家庭における子どもの教育責任者であることを自覚しており,予習・復習をみる,受験指導をする,学校参観をする,生活管理をするなど積極的に学業に関与する傾向がみられた.(4)主婦はたとえ経済的に困難であっても,是非とも子どもには教育を授けたいと願っており,節約に励む,家事の傍ら内職をする,などの行動をとる傾向がみられた.(5)主婦は怠業する我が子が学業成就できることを願っており,学習意欲を喚起するため,家事労働や内職に励む傾向がみられた.(6)以上から,主婦の教育的関心は,大きく分けて主婦の生活を子ども中心のものとする,積極的な家事労働を促すという二つの方向に導く役割を果たしていたといえる.しかし両者の違いは主として生活水準の違いに由来するものであり,当時の新中間層の多数を構成した低所得世帯では,教育的関心は主婦の家事労働を促す方向に機能したものと考えられる.本稿では新中関層の教育的関心と主婦の生活行動との関連を分析することにより,高い教育的関心が積極的な子どもへの関与を導くというだけでなく,積極的な家事労働を促すという,新たな生活展開の回路を見出すことができた.またその分析を通じ,子どもとの関係における主婦の家事労働の主観的意味づけにも迫ることができた.しかし教育的関心が描かれていない体験談も多かったことから,主婦の生活を規定した要因は他にも多いことが予想される.また夫との関係における主婦の家事労働の意味づけも解明されていない.これらを明らかにすることにより,新中間層生活実態にさらに深く迫ることが今後の課題である.
- 社団法人日本家政学会の論文
- 2004-06-15
著者
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