チンパンジー幼児における自己鏡映像認知 : 縦断的研究と横断的研究
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概要
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チンパンジー幼児の自己鏡映像認知の発達過程を, 縦断的観察 (実験I) と横断的観察 (実験II) によって検討した。実験Iの被験体は生後9週齢から人工哺育で育てられたメスのチンパンジー頭で, 実験開始時に76週齢, 実験終了時に87週齢だった。ケージ内に鏡を設置し, 1日1試行10分間の呈示を47試行おこなった。被験体が鏡呈示事態において示したさまざまな行動を50種の行動型として記述した。さらにこれらを社会的反応, 探索反応, 協応反応, 白己指向性反応, 複合反応の5つの行動カテゴリーに分類した。被験体は社会的反応や探索反応から, 協応反応や自己指向性反応へと出現行動カテゴリーを変化させ, 最終的には複合反応を示すに至った。いわゆる「自己意識」の成立の指標とされる自己指向性反応を被験体が示したのは1歳半をすぎてからだった。実験IIでは, 過去に鏡に関する経験を持たない1歳4カ月から4歳11カ月のチンパンジー幼児17頭を被験対象とした。1試行40分間の鏡呈示を実施し, 試行中に出現した鏡に関する行動を, 実験Iと同様の行動カテゴリーに分類した。40分間の試行内における鏡に関する行動は3歳半以上の被験体で特に変化した。社会的反応は最初の10分間で急減し, その後, 自己指向性反応およぴ複合反応が出現した。各行動カテゴリーの加齢に伴う出現変化も同様の傾向がみられた。年少の被験体は社会的反応を主に示し, 年長の被験体は自己指向性反応や複合反応を示した。横断的観察で得られた自己鏡映像認知の発達過程は, 縦断的に観察したチンパンジー幼児やヒト乳幼児の例と同様だった。だが自己指向性反応が現われ始めた時期は横断的観察では3歳半頃で, 繰り返し鏡が呈示された実験Iの被験体よりも, 約2年遅れていた。自己鏡映像の認知能力は, 加齢に伴う成熟と, 自己鏡映像に関する学習経験量によって決まることが示唆された。
- 日本発達心理学会の論文
- 1994-06-30
著者
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