本邦中生代の凝灰質岩石に就いて (摘要)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
(一)、本邦に於ける各地質時代の地層を通覽するに古きは結晶片岩系より新しきは新生代に至るまで各地層中に凝灰質岩石或はこれより誘導せられたと信ぜらるゝ幾多の岩層が發達して居る。唯中生層中に於いては比較的その分布が少く三疊紀並びに下部侏羅紀の地層中には未だその存在が認められず、侏羅末期以後の地層に於いて知らるゝのみである。從來中生代の凝灰質岩石として特記せられて居るものは主として西部及び西南日本に發発つする上部侏羅層及び下部白堊層中に存する赭色の鹽基性又は中性凝灰質岩石類に過ぎなかつたが、近頃諸所の材料より徴するのに北海道又は東北地方に分布する白堊紀層特に上部白堊紀層に於いては相當著しい酸性火山岩質凝灰岩の發達して居る事を認める事が出來た。(二)、上部侏羅層中の凝灰質岩石の例としては四國南部の安藝川層及び志摩の的矢層中の赭色層の一部が擧げられ下部白堊層中の例としては中國、九州一帯に分布する所謂硯石層中の赭色層及び四國勝浦川附近及び陸前大島附近の赭色層等が信じられて居る。これ等各所の岩石を檢するのにその一部特に鹽基性火成岩と相伴つて産出する部分に於いてはその成分或いは構造上明かに凝灰質岩石たる事を示すものも多いが、ある部分に於いては單に赤色なる砂岩又は頁岩にすぎず、これを如何なる點より見ても凝灰岩又じゃ直接それに關係ある岩石と認むべきではないが外見の類似する事のみによりてこれ等の凡てを凝灰質の岩石と定むるは戒むべきであつて、岩石の成分、構造、種類、分布或は相互關係については研究上一層の吟味を必要とする、硯石層中の標式的赭色岩の化學成分は左に示す通りでその珪酸量に於いては從來知られたる中生代末期の〓岩類に類似するが酸化鐵、苦土或は石灰等の量に於いては純然たる火成岩に對し稍著しい差異を示して居る事は注意すべきである。(三)、北海道に發達する白堊紀層中に流紋岩質凝灰岩の發達して居る事は西南日本の鹽基性凝灰岩類に比し興味ある事である。北海道に於けるものは含化石頁岩又は砂岩中に介在するもので特に上部菊石層中のものゝ如きは極めて新鮮なる硝子を主體とするものでその標式的凝灰岩たる事は恰も第三紀層中のものを見るの感がある。此等の凝灰岩層は日高、膽振方面に著しい露出を示しその諸所の産状に關しては北大地質科學生により明かにされて居る。又この種の岩石は更に北にのびて石狩、天鹽、樺太地方に及ぶものゝ如くである。偶ゝ佐々學士の陸中久慈地方にて蒐集した標本を見たるが同地方に發達する上部白堊層中にも北海道のものと全く同様なる流紋岩質凝灰岩の介在して居る事を知つた。北海道並びに東北地方に於ける中生代の凝灰質岩石の發達區域は此後の研究により一層擴大せらるゝものと信ぜられる。これ等の岩石は成分、構造上より見て純然たる凝灰岩の性質を示し二次的に他より移動し來つたものとは思はれない。從つてそれ等の上下に整合に存する化石層によりそれ等の噴出、沈殿の時代が比較的せまい範圍に限定されるからひいては當時の火山岩活動を推定する上に有力な一助となるものと信ぜられる。[chemical formula] (四)、要するに本邦各地中生代の地層中に發見せらるゝ凝灰質岩石に關する事實を綜合すれば西南日本に於いては侏羅紀末期より白堊紀初期に亙り、概して鹽基性又は中生火山岩に相當する凝灰岩の成生あり。北海道及び東北に於いては白堊紀特にその末期に於いて酸性火山岩質凝灰岩の成生があつた事を認める事が出來る。これ等の凝灰岩」は所謂中生代末期の火成岩活動に伴はれた火山活動の跡を示すものであつて、新生代に於ける大火山活動の先駆をなすものと見られる。乃ちこれ等凝灰岩の研究は兩時代に於ける火成岩の研究と相俟つて極めて興味ある問題と信ぜられる。
- 日本地質学会の論文
- 1931-06-20
著者
関連論文
- 高知縣白瀧鑛山附近の地質及び鑛床
- 温石綿脉生成に關する1考察
- 滿洲國錦洲省興城縣夾山鑛山の地質及鑛床
- 地質野外調査の今昔
- 北海道の地質に関する諸問題
- 変成帯におけるGlaucophane schist faciesについて
- 釜石鑛山における銅鑛石の産状(釜石鑛山の地質及鑛床研究-2)
- 變成帶中の眞性火成岩及び被交代性火成岩
- (28) 北海道産ロジン岩について
- (151) 北海道常呂地方の含滿俺鐵鑛石の研究
- (263) 北海道における鑛床生成時期 (V., 日本の火成活動の時代的特性)
- (83) 本邦産シヤールスタインについて
- (215) 北海道に於ける枕状熔岩に就いて
- 會長講演
- 日本地質學會創立當時を偲びて
- クロム鐵鑛鑛床の成因に關する1考察
- 北海道の石綿鑛床に就て
- 北海道に於けるクローム鎖床に就いて
- 西南日本外帶及び琉球列島に發達せる花崗岩質岩石に就いて
- 西南日本外帶及び琉球列島に發達せる花崗質岩石に就いて
- 端西國ロカルノ附近の變成岩に就いて
- 天鹽國産エヂリン輝石藍閃石英片岩 (摘要)
- 柘榴石の産出状態に就て(二)
- 柘榴石の産出状態に就て(一)
- 吐〓喇火山群島に就きて (摘要)
- 江原道江陵郡東南部の變成岩に就きて (摘要)
- 十勝國南部海岸のホルンフェルス中の變成石灰質團塊に就いて
- 北海道に於ける花崗岩及びこれに附隨せる接觸變成岩に就いて (摘要)
- 所謂神居古潭系の岩石に就いて (摘要)
- 旭川北西部山地に於ける塩基性火成岩の接觸變質作用に就いて
- 本邦中生代の凝灰質岩石に就いて
- 本邦産花崗岩の化學性に就いて(摘要)
- 御荷鉾系並に秩父系の角礫質岩石に就いて(摘要)
- 北海道に於ける藍閃片岩類の原産地
- 本邦中生代の凝灰質岩石に就いて (摘要)
- 四國祖谷渓谷の含礫片岩に就いて
- 變質岩の斑状構造に就いて
- 御荷鉾層の所謂「輝岩」に就いて(摘要)
- 日立鑛山附近のオツトレライト千枚岩の成因(二)
- 日立鑛山附近のオットレライト千枚岩の成因(一)
- 伊豫別子鑛山附近の角閃石の成因
- 本邦産紅簾片岩に就いて
- 本邦産藍閃片岩に就いて
- 福嶺鑛山の接觸變質鑛床に就いて
- 伊豆天城火山附近の地質(大正十年十月十五日東京地質學會に於ける講演の大要)