天鹽國産エヂリン輝石藍閃石英片岩 (摘要)

概要

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(一)、北海道各地の河川流域の轉石中に往々結晶片岩類の礫を混じて居る事は、古くより注意せられた所であつてこれ等の産地並びに岩質に就いては巳に二三の研究が發表せられて居る。余は矢部教授の厚意により先年西川學士が天鹽國オビラシベ川中流れにて採集せる十數個の結晶片岩礫(主に藍閃片岩類)を檢する機會を得たが、同礫中に極めて興味深きエヂリン輝石藍閃石英片岩の一片を發見した。(二)、同岩石は緻密堅固な暗灰色の片状岩石であつて肉眼的にはその成岩鑛物を決定することを得ないが、顯微鏡下に於いては主に石英粒及び小量の曹長石粒より成る基地中に略一定の方向に排列して居る比較的多量のエヂリン輝石及び藍閃石を含有し、更にそれ等の間に柘榴石の微晶を散點せしめて居るものである。石英及び曹長石は〇・二粍内外の微粒で共に新鮮である。エヂリン輝石は〇・一-〇・二粍の柱状結晶をなし極めて特徴ある多色性を示して居るX草緑色、Y淡緑色、Z黄褐色、主軸に於けるXの最大消光角は二十五度である。藍閃石はエヂリン輝石と略ゝ同長で且少しく細い柱状結晶をなし、且特有の多色性を示すが他の鹽基性片岩中のものに比し、稍淡い様である。柘榴石は無色の微晶であるが斜方十二面體を示すものが多い。(三)、本岩の化學成分は次の如くである。(北大、金成明氏分析) [chemical formula] 右化學成分より推して本岩は珪酸に富んだ水成岩より變質したものと見る事が妥當である。本岩に於いてアルカリが礬土に比して過量なるは注意すべきで特に曹達に富む事はエヂリン輝石及び藍閃石の存在と密接なる關係を示すものである。(四)、エヂリン族の輝石は久しい間唯火成岩中にのみ存在し變質岩中には産出せぬものとせられて居たが十九世紀末に於いて C., Palache が墺國に於けるグラニュライト中に又は M., A., Lacroix が希臘に於ける藍閃片岩中にその存在を發見して以來各所の變質岩中に認めらるゝに至つた。而しその産出は依然として甚だ稀である。本邦に於いても諸所のアルカリ岩中には該鑛物の存在を知られて居るが、結晶片岩中に含まれて居るものに關しては本岩が初めての例と思はれる。變質岩中のエヂリン又はエヂリン輝石は火成岩中に於ける場合と同じく曹達極めて興味ある問題と信ずる。(五)、本岩は前述の如く轉石の一つであつて、その産状については審かでないが附近の地質關係より按ずるのに、その原塊より直接削り出されたものではなく第三紀層又は中生層中の礫層より轉び出たものゝ様に見える。その産状並びに本岩と混じて産出する種々の藍閃片岩類との岩石學上の關係等に就いては更に此後の探究に俟つ事とする。
1931-06-20

著者

鈴木醇
北海道大学理学部地質学鉱物学教室

天鹽國産エヂリン輝石藍閃石英片岩 (摘要)

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