「治水工事の費用負担に関する研究」 : 近世における鶴見川流域を例として
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
横浜市を主流域とする鶴見川の流域諸村は,頻発する洪水に悩まされてきた。近世においても,鶴見川流域は洪水常習地であったことが,多くの資料によって示される。しかし,近世,特に近世後期における治水工事費用負担は,幕府や諸藩の財政逼迫によりほとんどが流域住民の直接的な費用負担に依存していた。そこで筆者は,近世後期における鶴見川流域住民の治水工事の費用負担について研究し,住民の洪水への対応の一形態を明らかにしようとした。このことは,総合的かつ高額な費用負担を伴う現在及び将来の治水計画の策定にあたり,一つの重要な示唆を与えることが出来ると思われる。鶴見川流域住民は,定浚基金制という積金制度を設け,その利息によって定期的な治水工事を行ってきた。基金は全額が村高割で出資され,水害の多い下郷諸村の負担金が大きくなる受益者負担方式がとられていた。なお,金の取扱いは幕府役所であった。しかし,大規模工事は村々からの出金の他,幕府からの借入金に頼った。借入金の返済には上記の定浚基金の利息を当てた。したがって,利息がすべて借金の返済に当てられた時期の治水工事は新たに村々から費用を徴収して実施される完全な自普請となった。この場合の費用負担方式は,受益者負担であったり,均等割であったり,様々である。1843年に,幕府は定浚基金の事実上の廃止を申し渡したが(仕方替),諸村は反対し,従来からの利息を減じて新たな基金制度を発足させた。新基金の元金は,明治維新時に約2000両に達し,この基金元金の全額を使用した大規模な治水工事計画がおこったものの実現できなかった。その後の基金についての使用は,筆者の管見に入らない。
- 1988-01-28
著者
関連論文
- 治水費用賦課からみた水害予防組合の解体過程 : 神奈川県鶴見川水害予防組合を例として
- 「治水工事の費用負担に関する研究」 : 近世における鶴見川流域を例として
- 都市河川にみる治水システムと遊水地の意義--鶴見川を例として-2-
- 都市河川にみる治水システムと遊水地の意義-1-鶴見川を例として
- 遊水地と治水計画 : 災害と地理学 : 昭和61年度秋季学術大会シンポジウム
- 水害常習地における治水政策の受容とその費用負担に関する一考察 : 明治期の鶴見川流域を例として