Jonathan B. Riess : The RenaissanceAntichrist. Luca Signorelli's Orvieto Frescoes., Princeton University Press, 1995
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概要
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2.さて、アメリカ合衆国シンシナティ大学美術史教授ジョナサン・リースは、前世紀以前のシニョレッリ文献にも適切に目を配りながら、終末論の一角を構成する『反キリストの支配』(あるいは『反キリストの諸行』とも)の分析を特に専門論文の課題とする。そしてこの絵の主題をめぐって近年のシャステル説に言及する。シャステルによると、シニョレッリの反キリストはサヴォナローラに同一視され、15世紀末におけるフィレンツェ・ルネサンスの歴史的境位のもとで理解されなければならないのである。『パーンの教育』のほうも、ロレンツォ・イル・マニフィコのために描かれたとされているから、ある時期、シニョレッリはフィレンツェの文化圏、それもプラトン主義の思想傾向に深く関与した画家ということになるわけである。リースはこのシャステル仮説を一切認めない。この理論の影響の大きさと少なからざる支持者の存在を認めながらも、リースは、サヴォナローラを偽預言者と批判したマルシリオ・フィチーノ書簡とシニョレッリのフレスコ画を関連づける解釈に、なんらの根拠も認めていない。この点は、著書よりも、十年前に公表された論文でも言われていた。私自身は研究の出発点にネルサンス・プラトン主義思想を選択し、シャステルの時代認識に強く影響されてきた点があった。もちろん今でもシャステルの研究を評価することは変わっていない。だが、次第に、シャステルら先駆的研究者の仕事と理論が拡大されて、あまりにもルネサンス・プラトン主義とその代表者フィチーノ思想の相のもとに時代を認識しようとする傾向が嵩じ過ぎているのではないか、と危惧するようになった。それだけに、リースの研究は時代に対する客観的な評価を得るために不可欠な書となろう。
- 1995-10-20
著者
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