I.U.タルケッティ作『黒い城の伝説』における夢と記憶について
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概要
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この作品は当初は『イルプンゴロ』("Il Pungolo")紙に連載されたのであるが(1867年)、タルケッティの死後まもなく、その『幻想物語集』(1868年)のなかに二番目の物語として収められた。この短い物語のなかには、それまでの幻想文学の伝統から流れこんできたさまざまな素材が詰め込まれており、「幻想物語」の一種の手引き・便覧と定義づけうる作品であり、ここでも例によってホフマン、ポー、ネルヴァルがもっとも強烈な刺激を与えているという。前世、記憶、夢といったものが、この作品を支える鍵概念となっているのだが、これらの鍵概念の形成にホフマンやポーやネルヴァルがどのような形で影響を与えたのかをG・マリアーニ(Gaetano Mariani)の指摘に沿って概観しつつタルケッティが夢の分析において、ここでもまた人格の二重化現象を援用していることを明らかにすることが小論の目的である。この作品は友人によるある人物の手記の公表という形式をとっており、この手記に記述された出来事が実際にあった事実であるとの印象を強めるために、事件の場所と時間が明示されるが、場合によっては現存する関係者を配慮して個人名や地名が伏せられることもある。
- 1994-10-20