Novellinoの意義
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概要
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文学作品がどれほど時代というものに依拠しているか。その依拠している割合を判断した場合、作品の価値、評価はどのように測られるのか。詩や小説や戯曲などの虚構的分野、つまりある一定の作為のもとに書かれた作品(叙述的作品)では、近代以降、誰が作者かは明瞭で、それもおおかた一人であるから、作者の履歴や資質、作品との相関関係を調べて検討すれば、現実とのかかわり合いの深度の理解もそれほど困難ではないであろう。しかしながら作者が不明であったり、たとえわかっていても、作品内容に関与し得ない場合はどうなるのであろうか。いまその代表的な例として説話を挙げてみるが、どこに線をひいて依拠率を測ったらよいかとまどいを覚えてしまう。なぜなら説話は、虚構とも実話とも判別のつけ難い<言い伝え>を作者が書き留めた陳述的作品だからである。説話形体の作品では、作者の意図は編纂の段階ではいり込んでくると思われる。作者の属している階層、政治・文化意識は、巷間で語られている話を掬い上げる際におのずと顕われてくる。さらに陳述という手段を考えてみると、人々の語り合う場が作品成立の風景として見えてきて、その場の風景を一定の思念で体系づけたものが説話ではないかとも思われる。
- 1985-03-30