『鑑』 : 中世百科全書研究ノート
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概要
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今日ダンテの『神曲』に関してその基本的な情報のすべてを得るもっとも手みじかな方法は、『ダンテ百科事典』を播くことである。そこからわたしたちはダンテ研究の正確を期すことができる。現代ダンテ学が百科事典の衣を纏っているように、また『神曲』そのものが中世における一つの百科事典であることに異論はない。三位一体と聖俗両知識の集積、それはひとえに盛期中世を支配した精神と様式観に係る問題である。『聖書』と自然が神によって記された二冊の書物とされ、人間の認識はそこに書きこまれた象徴を解き明かすことによって広がりと深まりを獲得すると考えられた。万物の隅々にまで張りめぐらされた象徴の体系は、それ自体完結したものでなければならない。メガコスモスとミクロコスモスの照応関係が深究されるなかで、あくまでも七自由学科を根幹として世界のより包括的な記述様式が確立されつつあった。それをわたしたちは中世のEnciclopedismoと呼ぶ。こうした一時代の様式観ないし嗜好の側面から、『神曲』の生成に光を当ててみようとの意図で本稿は書かれた。但し、今回は主として研究書誌をヴァンサン・ド・ボーヴェとブルネット・ラフティーニの鑑についてふりかえってみる。
- 1982-03-20