ダンテ「新生」をめぐる一註解の試み : Locus Amoenus というトポス
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概要
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ダンテ「新生」を論じるにあたり、従来行われたトゥルバドゥール抒情詩・シチリア派・清新体派という図式的展望、あるいはベアトリーチェ伝説にまで発展するアモーレの哲学、こうしたオーソドックスな観点から離れ、本稿では、主に「愛の神」にまつわる黙示録的イメージの分析を試みる。それは、言い換えれば、既に失われて久しい三つの環をめぐる探求でもある。この探求の契機となったのは、「新生」第九章のソネット"Cavalcando l'altr'ieri per un cammino, ..."にみる牧歌形式の再発見である。「新生」第九章の"...uno fume bello e corrente e chiarissimo", に暗示される《locus amoenus》-第一の環。プロヴァンス抒情詩の一ジャンル「牧歌」再考-第二の環。"il dio d'Amore"特に「新生」第十二章にみるそのラテン語句"Ego tanquam centrum circuli, cui simili modo se habent circumferentie partes;tu autem non sic".との関連で考察されるアンドレアース・カペッラーヌスの"De arte honeste amandi"-第三の環。これら三つの環の意味とそれら相互の絡み方は、「新生」成立にかかわる秘密が明らかにされる過程で具体化される。これら三つの環はそれぞれ異った方向から差す光となり、「新生」の背後にそれぞれ三様のシルエット、南仏・北仏・トスカーナの各文化圏が浮かび上がる。中世文学に息づくポス《locus amoenus》が、以上のイメージ分析により明らかにされれば、本稿の目的はおおむね達成されたことになる。
- イタリア学会の論文
- 1980-03-10