フィレンツェ毛織物工業の性格変化 : フィレンツェ毛織物工業の存在形態の理解のために
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概要
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本稿の課題は、主に一四世紀前半期のフィレンツェの幾つかの史料に基づいて、毛織物と羊毛の流通のありかたを理解するとともに、そのありかたの変化がフィレンツェ毛織物工業のありかたに与えた影響を考察することである。フィレンツェは従来、北西ヨーロッパの高価な毛織物を再輸出のために輸入すると同時に、地中海周辺の諸地方で産出される種々の羊毛(以下、地中海羊毛、という)を原料とする安価な毛織物を生産していた。が、一三二〇年代前後以降、最高の品質で名高いイギリス羊毛を原料とする、北西ヨーロッパの毛織物と同質の高価な毛織物を大量に生産するようになり、一四世紀後半期にはその高級化は一層進展した。フィレンツェ毛織物工業におけるこうした性格変化が実現しえたのは、同工業の従来のありかたを具体的に規定していた毛織物や羊毛の流通のありかたが変化したことに、その原因の一部を求めることができるのではないか。本稿はこうした視角から、筆者が従来関心をもってきたフィレンツェ毛織物工業のありかたについての理解を深めようとするものである。
- 1979-03-03