ズヴェーヴォ『ゼーノの意識』における名詞構文について
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
動詞に対する名詞の優勢は、近代以後のイタリア語におけるひとつの傾向である。文中で名詞の果たす役割が拡大した結果、いわゆる名詞構文が生まれ、名詞中心のこの文体が、自由間接文体と並んで、十九世紀後半以降の小説の文体を特徴づけてきたことは、本誌20号においてすでに指摘されているとおりである。小説の文体が、こうしたいわば過渡的な状況におかれていた時代に登場した作家イタロ・ズヴェーヴォは、小説技法に特に意識的であったわけではない。彼の関心はむしろ小説の内容に集中しており、文体の精巧さそのものは彼の主眼とするところではなかった。にもかかわらず、彼がとりわけ名詞構文を、イタリア語のシンタックスの新しい波に乗るかのように積極的に作品の中にとりいれ、しかも効果的にこれを駆使している点は興味深い。資料をズヴェーヴォの作品に限定する以上、語学的な視点からのシンタックスの考察はもとより不可能であり、またズヴェーヴォ個人の文体研究に徹することも出来ず、甚だ中途半端な形になってしまうが、ここではズヴェーヴォの『ゼーノの意識』(一九二三年)における名詞構文の用法について、小説の内容との関連から検討したい。具体的に『ゼーノの意識』からの文例を挙げる前に、イタリア語を初めとするヨーロッパの言語の推移の中で、名詞構文がとげてきた歩み、その特徴および用法について、ごく簡単に述べておきたい。
- 1977-03-20