ヴェルガの<成熟期における詩学と思想>素描
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概要
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ヴェルガが自己の詩学や思想について語ることは稀であった。その彼がヴェリズモ詩学の課題や創作の意図を真正面からとりあげて、簡潔にしかも明確に自己の立場を表明している「グラミーニャの愛人」の序文と「マラヴォリア家の人々」の序文とは、寡黙なヴェルガがその芸術の成熟期において残した貴重な証言である。筆の陰に、自己の作品のなかに見事に姿を隠しおおせたヴェルガの、この貴重な手掛かりからできるだけ多くのものを探り出そうという衝動を、この証書にできる限り多くを語らせようという誘惑を、だれしも禁じえないだろう。成熟期のヴェルガの芸術と思想の位相を見定める作業として、ここではまず、文学理論としての「グラミーニャの愛人」の序文が意味するものを、同時代の共時的な地平で概観しようとする試みがなされる。その際、カプアーナの当時の評論が多くを説明してくれるはずである。ついで「マラヴォリア家の人々」の序文を中心に当時のヴェルガの思想に光をあて、これを照らし出すよう努力される。このような作業のなかで、ヴェルガの「没個性」の詩学が、どのような意味で「なにか寛大なもの、気高く厳しいもの」を含むものであるのかを、さらにまた「ヴェルガのイデオロギーとは、このような表現が可能なら、それは彼の詩学である」ことを、いささかでも示唆できれば、この小論の目的は充分達成されよう。
- 1975-03-20