ダンテとヴィルジリオ
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
ダンテとヴィルジリオという題名から直ちに想像されることは、同じ題名で書かれたムーア及びホウィトフィールドの書物である。だが、それらは、両者とも、イタリアの詩人ダンテとラテン詩人ヴィルジリオ(ウェルギリウス)の思想や文体を比較し、両者の関係を述べたものである。しかるに、私のこの小論文は、名前こそ等しいが、内容は全く異なるものである。なぜなら、私の意図するところは、『神曲』の中の二人の重要登場人物としてのダンテとヴィルジリオを比較し、その関係を詳かにしようとするものであるから。さて、『神曲』にヴィルジリオが初めて登場するのは、『地獄篇』の第一歌の六三行においてである。その場所は、作品によれば、ダンテが迷いこんだ暗闇の森と浄罪山の裾の中間で、ダンテはラテン詩人が突然目の前に出現したとき、大そう驚き、「影か人か」と訊ね、また恐れて、「私に憐れみをかけて下さい」と叫んでいる。だが、それが怪しい者でなく、敬愛するヴィルジリオだと知り、天の命令とベアトリーチェの頼みで、ダンテを彼岸の世界旅行へ連れて行く任務を有することが分ると、安心して彼に従って不思議な旅行へ出発する。もっとも、ヴィルジリオの案内役はそこから、浄罪山の頂上まで、すなわち、『浄罪篇』の第三歌の四九行までであって、以後は、ベアトリーチェに引きつがれる。
- 1965-01-20