「十日物語」に現れる動物
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概要
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教皇、枢機官、皇帝、王、諸候、貴族、紳士、淑女、修院長、司教、司祭、修道女、隠者、騎士、商人、裁判官、市長、芸術家、公証人、高利貸、医師、職人、料理人、悪漢、盗賊、というふうに、ジョヴァンニ・ボツカチオが「十日物語」のなかに登場させる人物は、社会のあらゆる階層をもうらしている。そして、そのことは、この作家が書斎にとじこもった文学者でなく、あるいはフィレンツエの商業界に、あるいはナポリのロベルト王の宮廷に、あるいはローマ教皇庁に自由に出入し、ときには外交官として各地の宮廷と外交接衝をも行った彼の幅広い人生体験を証拠だてるものである。また、これらの「男の世界」だけでなく、彼は「女の世界」の描写についても、すぐれた腕前をみせ、「十日物語」のなかにあらわれる狡猾な婦人、嘘つきの婦人、虚栄心のつよい婦人、蓮葉な婦人、恋に悩む乙女、貞淑な婦人たちは、いづれもリアルな筆で浮彫りされていることはあまりにも有名である。また、イタリアの美しい風景描写にも、ダンテにまさるとも劣らぬ鋭い感受性を示していることは、彼が当時有名な地理書「山、森、泉、湖、川、沼、沢、海等」の著者であることからなっとくがいくし、その植物に関する知識もかなり該博である。だが、動物についてはどうであろう。ボッカッチオは一体動物についてどの程度の関心を示し、どのくらいの種類のものをその作品なかに盛っているのであろうか、これがこれから私が解明しようとする問題である。
- 1964-01-20