ジォヴァンニ・ボッカッチオ『ダンテの生涯』
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概要
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訳者註(1)原題はジォヴァンニ・ボッカッチオ著『ダンテを讃える小論文』Trattatello in laude di Dante, (俗称『ダンテの生涯』La vita di Dante)である。現在、ボッカッチオの『ダンテ伝』として伝わっている三種の写体のうちで、これはもっとも完成されたまた、古いものである。フォレスティの説によると、ボッカッチオが一三五九年、ペトラルカに贈った神曲の(あるいは準備中のダンテ作品集の)序文として書いたものと言われる。また、一説にはかれが一三七三年八月、聖ステファノ寺院で開講した『神曲講議』の序説を書きかえたものと云われる。この小論文は云うまでもなく、初期のもっとも重要なダンテ伝の一つとしての資料的価値をもっているとともに、他方この作家の芸術的個性や人文主義的詩論(第四章、第九章-十一章)を知るうえにもかなり重要なものである。従って、この作品を一概に、小説家の空想が生んだミスの多い伝記ときめつけることは誤りであろう。ところでかれの伝記の源泉としては、かれが愛読したダンテ諸著作の記述をもとにして類推したもの、またかれ以前に書かれたジォヴァンニ・ヴィラーニのGiovanni Villani「フィレンッェ年代記」"Cronica fiorentina"第九巻一三六章の簡略な伝記から借用したもののほか、かれ自身が故人の関係者等から直接蒐集した新しい資料もかなりふくまれている。ボッカッチオはこのような豊富な知識を生かしながら、当時のフィレンッェの無理解な民衆にたいして偉大な芸術家ダンテの名誉を回復しようとしたのである。このような意味でまさしくこの書物は初期ダンテ研究の金字塔と言うことができる。かれの作品に基づいてその後編集された『ダンテの生涯』に、レオナルド・ブルーニLeonardo Bruniのもの、フィリッポ・ヴィラーニFilippo Villaniのものなどがある。ところでここで訳出したのは、『ダンテの生涯』のうち、ダンテの誕生からその死までをとり扱った第一章から第六章までである。それ以後第一七章まではとくに詩人の風貌と作品とをとり扱った部分なので、『ダンテの作品』として一括して適当な機会に紹介することとする。
- 1962-12-30