読み返しによる学習
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概要
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我々は本を読むとき, ていねいに一度だけ通読するより, 手早く何度か読み返すほうがよく理解できることが多い。これは次のような理由によると思われる。ーつの理由は, ある部分の理解に必要な情報が後になって初めて出てくることがしばしばあるということである。これは著者がいいかげんで書く順序になんの配慮もしなかった場合はもちろん, そうでなくても, 著者は書こうとする内容全体についてすでによく知っているから, 読者にも分かるつもりで書いてしまったが, その理解のためには実は後に書かれる知識が必要だったということが起こりがちである。また, 十分注意したとしても,本に書かれる知識は前後で複雑に関係していることが多く, その場合理解に必要な情報が後から出てくるという状況は避けられない。このような時は, 分かりにくいところにはこだわらず読み進み, 適当に読み返すことが有効である。このほかに, ある事柄がいろいろな仕方で繰返し説明されているときにも, 分かり易いところを先に理解しておけば, それをもとに, 分かりにくかったところを読み返しの際に容易に理解できる可能性がある。もう一つの理由は, 初めに全体の概要をつかむということである。これにより個々の知識間の関係が分かり, 知識を適切に位置付けることができる。また, 重要な事柄とそうでない事柄との区別や, 他の箇所の理解に必要な知識とそうでない知識との区別をすることができ, 効率的に学習できる。三つ目の理由は, 人は一度に取得可能なすべての情報を得, またそれを保っているわけではないということである。したがって読み返しの際に新たに情報が得られることは多い。以上のような状況における読み返しを利用した学習を「読み返しによる学習」(Learning by Rereading)と呼ぶことにする。本研究は人の学習過程の理解のためにそれを模擬する事を目標とするが, 工学的に見ると, 読み返しにより, 学習できる対象の範囲を広げ, 学習の効率を上げられる可能性がある。本からの学習の実現のためには自然言語理解研究の成果を待たねばならないが, 以下では, 自然言語の問題を含まない, 例からの学習に焦点を絞ってさらに具体的に検討する。なお, 本論文において「読む」(read)とは, かならずしも本のreadだけでなく一般的にデータのreadを意味する。
- 一般社団法人情報処理学会の論文
- 1986-10-01