地域内・間の生産リンケージ : 大阪における自転車工業集積の近年の動向
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概要
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近年日本の自転車工業は激しい輸入競争にさらされ,規模の縮小を迫られている.一般に「空洞化」とよばれるこの過程で,大阪地域は1990年代までに他の国内生産地域に比べて自転車,同部品生産において相対的地位を向上させた.本研究では大阪の自転車工業に関わる企業が地域内,地域間の生産リンケージをどのように選択的に発達させ,変化させているかを考察する.1980年代後半以降の欧米の集積研究においては,地域産業のダイナミクスを理解するにあたり,グローバルな規模で繁栄する地域を取り上げ,その要因を地域内部における企業間の相互利益の存在(一種の均衡状態)に求める傾向が強かった.それに対して本研究においては,地域内だけでなく地域間の生産リンケージがどのように集積企業に影響を与えてきたのかを,歴史的視点を重視しながら実証的に考察する.自転車工業は完成車アセンブラーと部品サプライヤーのほかに,部品の部分加工を請け負う中小企業群から成り立っている.自転車工業においてはアセンブラーとサプライヤーは比較的独立しており,また完成車と部品の間には生産・貿易の推移状況に大きな差があることに留意する必要がある.国内における立地の特色としては,フレームなどの部品の自社生産も行う「工業型アセンブラー」が歴史的に多かった東京や愛知に比べ,大阪には部品生産を行わず組立と卸機能に特化した「商業型アセンブラー」が多く,この商業型アセンブラーが現在の国内市場において重要な位置を占めるに至っている.近年の理論的集積研究においては,取引の効率性よりもイノベーションの促進要因として近接性に注目が集まっている.しかし本事例が示すのは,輸入品に対する競争力を維持するために重要な役割を果たしているのが,近接性を通じた製品調達の速度と頻度の増加だということである.また地域内の企業間関係は,既存研究が指摘するような技術的能力の格差のみによって規定されているわけではなく,とくにアセンブラーとサプライヤー間の関係変化は,部品の輸出市場の段階的な縮小という,域外のコンテクストの変化にも依存している.今日の自転車工業において重要なイノベーションは,域内企業の近接性よりも,むしろ主に最終市場に接近することによって生まれており,ローカルな知識の伝達という形での外部性の重要性は明確ではない.また戦後の一定期間,海外の生産技術導入などを支えてきた業界の研究機関は,イノベーションの促進という面では制度的な役割を果たしきれていないように見受けられる.一部の有力な集積内企業は,国際部品調達や海外生産を通じて国際的なリンケージを発達させてきている.これらの企業は,国際的リンケージと集積内あるいは国内のリンケージとを様々な次元で使い分けている.ここでは製品別,プロセス別,生産量別という3種類の空間的な分業を区別して,それぞれの集積内部への影響を考察する.国際的な規模で生産リンケージを展開する少数の企業は,それ自身は国内でも競争力を持ち,中心的な技術は域内で維持する傾向がある.しかしこれらの企業の国際的な生産リンケージの発展がもたらす,集積内企業への影響はより複雑である.つまりある特定の企業には技術的改良を促す一方,他の企業には価格競争の徹底,あるいは取引関係の解消につながるというように,集積内部で差別的に作用している.本研究から導かれる,より一般的な洞察として,集積間競争という概念は集積内企業にある種の連帯をあらかじめ想定する問題を含み,むしろ「空洞化」の過程においては地域内・間の生産リンケージが複雑化することにより,集積内の企業の利害の不一致が起こりやすく,さらに制度的な調整もより困難になる可能性を指摘する.
- 2004-06-30
著者
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