デザインにおける感性情報の取り込み(<特集>感性工学)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
デザインを評価するとはどういうことなのか 私たちの対象とする工業製品のデザインの良し悪しを決めるとき、私は一般に次のような価値基準によって評価していると考える。1.それが美しいかどうか。2.その機能が十分であるかどうか。3.それが人間身体に適合しているかどうか。4.そのシステムが状況変化に対してオープンであるかどうか。5.経済的生産性が十分であるかどうか。6.それがわかりやすいかどうか。7.それが人間感性に適応しているかどうか。の7点である。1.美しいかどうかについては、それが同一の機能、性能、価格、システムであれば、ヒトは美しいものを選択するに決まっている。しかし、それが美しいかどうかをどのようにヒトが決定しているかについては、何も知らないところに課題がある。2.機能が十分であるかどうかについては、その時代の技術水準によるものであり、映像のメディア技術が、フィルム、テープ、光メディアに変化することによって、検索技術も変化するという具合に工業製品の機能・性能は技術の進化に依存している。ただし、現代の技術進化が私たちの感性にフィットしているかどうかを分析してみる必要がある。3.それが人間身体に適合しているかどうかについては、人間工学の蓄積した人体寸法データによってほぼ計測可能となっている。しかし、問題は、人間はどのような時にどのような身体運動をするのかという状況に応じた運動計測が出来ていないことである。4.システムのオープン性については、家庭電気製品等がすべて情報ネットワークに接続することが可能になった。これによって製品同士がお互いに情報交換を行いながら役割の制御を行うために人間感性のシステムを組み込む必要があるだろう。5.経済的生産性が十分であるかどうかについては、経済政策が思うように計画的に進まないことに見られるように、経済の枠組みの中に人間が頭の中で行っている「不安の仕組み」、「恐れの仕組み」、「希望の仕組み」、「願いの仕組み」といった人間感性システムを組み込まなければ、予測も成り立たないように思える。6.わかりやすいかどうかについては、認知科学の進展により、論理的わかりやすさを計測することは容易になったが、人間の「直感的にわかる」領域が解き明かされていないため、いまだに「わかりやすいユーザインタフェース」は実現されていないのである。7.人間感性への適応については、SD法と呼ばれる形容詞言語を用いた測定法が用いられているが、たとえば絵画を見たときの感動がSD法は測定できない。このようにこれまでのSD法は、言語的に理解できる範囲での測定であり、論理的測定技術でしかないのである。感性の測定技術が待たれるのはこのような意味においてである。このように人間の感性のはたらきをどのように測定し、デザインの設計プロセスに感性情報として取り込めばよいのか。という問題は、デザインにおいてきわめて重要な緊急の課題である。本稿では人間がどのように芸術作品を鑑賞している時の感性情報を測定できるかについて、筑波大学の感性評価構造モデル構築プロジェクトを紹介し、どのようなプロセスを踏んで感性科学の組織作りにいたったかについて解説する。
- 2004-10-15
著者
関連論文
- 内的コミュニケーションを支援するインタフェース(口頭による研究発表概要)
- 50周年記念シンポジウム : 半世紀展望-デザインに何が可能か
- まだらの美醜(デザイン学会報No.169)
- デザイン学の学術的展開 : 日本デザイン学会創立50周年を迎えて
- 「感性の脳科学」オーガナイズドセッション質疑応答
- デザインとビジネスモデル特許
- デザイン学会の役割とオーガナイズドセッション
- 筑波大学大学院における社会人特別選抜 (特集 大学と産・官・地域のコラボレ-ション 開かれたデザイン教育・研究に向けて)
- デザインにおける感性情報の取り込み(感性工学)
- 立体造形に対する触覚的鑑賞行動の測定装置の開発
- 感性科学の構築へ向けて
- はじめに