長野県佐久地方の「位牌分け」 : 婚入女性方亡親位牌祭祀の一解釈
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概要
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「位牌分け」は,既婚の子全員に親の位牌を分与し子たちが各々の婚家・養家・分家において亡親の位牌祭祀を行うという慣行である。その結果各家で家の成員でもなく本分家集団の成員でもない婚入者方亡親が位牌祭祀の対象となる。本稿はこの慣行の背後にあるイデオロギーを検討することが日本の先祖祭祀のみならず家についての民俗的概念を再考するヒントにもなると考え,実家・婚家双方の視点から慣行の意義を分析した。その過程で以下の点が指摘される。婚家は家に対する婚姻及び補足的親子関係の貢献を認めるがゆえに,位牌祭祀における兄弟姉妹の家々の平等性についての実家側のイデオロギーを受け入れ婚入者方亡親祭祀を行う。従ってこの慣行は「家イデオロギー」を背反しない。しかし生者・死者及び家間の異なる関係付けを表象する祭祀が複数存在しており,婚入者方亡親祭祀を行うのは位牌祭祀のみである。従って先祖祭祀全体としては夫方・妻方先祖の区別が明らかに存する。
- 日本文化人類学会の論文
- 1991-06-30