産婦人科領域に於ける線維素溶解酵素に関する研究
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概要
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線維素溶解(線溶)酵素の中で, 実際にFibrinをとかすのはPlasmin(Pl.)であるが, これは生理的状態では存在せず, 血漿中に大量にあるPlasminogenがActivator(Act.)の作用で賦活されて生ずる. このAct. には種々のものがあるが, 中でもTissue Activator(T-Act.)は臓器により, また病態と平行して変動するので, その医学的意義は大きい. しかし従来の研究の対象は, 流血中の線溶酵素が主であり, 病変局所の線溶酵素を直接の対象としたものは極めて少い. そこで著者は, 従来の定性的な測定方法から一歩進んで, 各種線溶酵素を別々に数値として測定できるFibrin平板法を用いて, 妊娠初期絨毛組織, 完成した胎盤, 羊水及び子宮内膜などに含まれる線溶酵素を, T-Act. Pl. Proactivator(Proact.)に分けて測定し, 常位胎盤早期剥離のさいに発生する低Fibrinogen(Fbg.)血症の成因, 機能性子宮出血の出血機序を追究した. 1. 正常の絨毛組織には, Act. Pl. はないが, Act. の前段階であるProact. はある. しかし退化しつつある絨毛組織では, Pl. Act. は瘻々認められ, Proact. も高単位のものが多くなり, また部位的な線溶活性の差が著しくなる. 2. 羊水中には, Pl. Act. はないが, Proact. は大量にある. 3. 定型的な常位胎盤早期剥離の症例について, 逐詩的に血液中のFbg. 線溶酵素を測定したところ, Pl. Act. は著増し, Fbg. は出血量(900cc)と平行せずに, 130mg/dlという著明な低下をみた. これらは, 線溶抑制剤εAmino Capronic Acid(εACA)及び輸血などの治療により, 臨床症状と共に, 急速に改善された. 4. 正常な子宮内膜のT-Act. は, 増殖期と分泌期とでは明らかな差はないが, 月経期には著増する. 5. 機能出血性内膜ではT-Act. は著増し, Pl. も瘻々証明された. これにεACAを1日8g投与すると, 子宮内膜中のPl. は速かに消失し, T-Act. も数日のうちに減少してくる. 以上の成績から, 常位胎盤早期剥離のさいに起る低Fbg. 血症には線溶現象が関与していることを述べ, 更にその誘発因子として, 羊水中の線溶酵素が大きな意義をもつことを推定した. また, 機能出血性内膜の出血機序にも線溶酵素が関与していることを明らかにし, 線溶抑制剤εACAを投与することの合理性や, その作用機序を推定した.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1965-09-01