分娩予定日超過と胎盤のコハク酸脱水素酵素活性
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概要
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妊娠が末期となり分娩が発来する頃には胎盤の任務は終り, 寿命が来て老化すると云われているが, その頃でも胎盤機能には或る程度の機能的な余裕placental reserveが存在すると考えられるが, 余裕ということの具体的な裏付けは乏しい, 勿論胎盤機能を正確に解明することは困難であるが, 著者は胎盤絨毛のコハク酸脱水素酵素活性を測定し, この面より胎盤機能を窺うことにした. そのため色々な段階の胎盤, 即ち妊娠初期, 中期及び老化の予想される分娩予定日超過のそれぞれの胎盤, 更には分娩が未だ発来していない時の帝王切開による胎盤, 又原因不明な子宮内胎児死亡例の胎盤等のそれぞれについてコハク酸脱水素酵素活性を測定した. コハク酸脱水素酵素の測定はKund及びAbood法に従って絨毛のミトコンドリア成分のTetrazolium還元能を調べた. 胎盤絨毛のコハク酸脱水素酵素活性は妊娠初期, 即ち妊娠10週より13週では154.2±2.8μg単位, 妊娠中期, 即ち妊娠19週より25週では132.8±2.8μg単位, 妊娠末期, 即ち妊娠38週より41週では118.2±3.6μg単位となり, 妊娠の進むにつれてコハク酸脱水素酵素活性の低下が認められる. 然し, 胎盤機能の低下が云々される分娩予定日超過例の初産胎盤のコハク酸脱水素酵素活性値は113.1±2,6μg単位, 同じく経産のそれは117.0±6.0μg単位で, いずれも妊娠末期の正常妊娠持続の胎盤活性値と比較して低下は認められない. 従って, このコハク酸脱水素酵素活性の測定からは胎盤は分娩予定日をすぎても或る程度の機能的余裕placental reserveをもっているのではないかと推定される. 分娩が自然に発来したこと自体が既に胎盤老化を予想させるものであるが, そのような可能性を除外するには, 未だ陣痛が発来しない時期に行われた帝王切開分娩によって得た胎盤を調べればよいわけで, その値は119.5±3.8μg単位である. この値は自然に発来した分娩例の値と有意差のないもので, この事実からも自然分娩胎盤のplacental reserveが推定出来る. ところが, 分娩が開始してから子宮内で胎児が死亡した例の胎盤のコハク酸脱水素酵素の値は111.9±5.9μg単位となり, 正常のものと比べて大差はない. このこともまた, placental reserveが小さくないことを示すとも云える. 一方胎盤膳能を臨床的に推定させるものとしては分娩時の胎児心音の変化, 羊水の混濁などがある. 胎盤機能が落ちてくればそれだけ児は假死におちいりやすく, 心音が悪化したり, 胎糞が出て羊水は混濁するからである. ところが, 初産婦では軟産道による難産の関係で同じような結果を示す惧れがあるので, これらの症状から胎盤機能を窺おうとする場合は分娩の容易な経産婦を選ぶ必要がある. そこで正常経産例について分娩時の胎児心音, 羊水を調べると分娩予定日超過前と後の間には有意差を認められなかった. この臨床成績もplacental reserveを証明するものである. 以上の様に著者は絨毛のコハク酸脱水素酵素活性を測定し, 一方臨床面からも胎盤は妊娠末期になってもかなりのplacental reserveをもつことを裏付けた.
- 1964-09-01