産婦人科領域における乳酸脱水素酵素 (LDH) に関する研究
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概要
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各種疾患診断の手段として, 酵素学の臨床応用が盛んに行われるようになった. 乳酸脱水素酵素についても, そのisoenzymeが電気泳動で分けられ, 或る種の疾患において異なったPatternが得られる事が見出されているが, この方法は手技が甚だ繁雑で臨床応用には不適当である. 本論文には, 其の測定方法に対する新しい創意と, またそれによる一連の結果を得たことが記されている. すなわちKmを求める方法, pH activity curveにおいてpH 7.2の活性に対するpH 5.87及びpH 8.6の活性比を求める方法, 並びに50%阻害を得るに必要なPCMB終末濃度を求める方法は, 従来のisoenzymeを分けるよりも比較的簡単であり, 臨床応用の可能性も遥かに大きいと考えるが, これ等の方法によって行われた研究報告は他には未だみられない. 本論文は次に示すように臨床的に意義深い幾多の新知見を得ている. 酵素研究の臨床応用は, 少なくとも本酵素に関する限り, 将来これらの方法による発展が充分期待される。1. pH activity curveにおいてpH 7.2の活性値に対する比をとると, (R5.87/7.2)は, 子宮頚癌が正常人と略同じであるが, 妊娠中毒症及び肝転移ある胃癌は正常人より特に小さい. (R8.6/7.2)は, 子宮頚癌が正常人より特に小さい. 2. 50%阻害を示すPCMB終末濃度は, 妊娠中毒症では正常人の2倍, 子宮頚癌では3倍であった. 3. 胎盤梗塞とLDH活性上昇に明らかな相関々係を認める. すなわち晩期妊娠中毒症患者で治療経過を追ってLDH活性を測定したところ, 活性が上昇の一途をたどり最高活性を示した24時間以内に子宮内胎児死亡を起した. 而して, これらの胎盤検索においては, すべてに明らかな胎盤梗塞を認めた. かゝる症例を考察するに, 活性の急激な上昇を示す場合は, 急速遂娩等により生児を得る可能性が増加できるであろうと思われる. 4. 悪性腫瘍患者の血清LDHを測定することにより, 転移の存否, 予後の推定, 又, 治療方法の適不適等の判定に資することの可能性が考えられる。すなわち, 手術, 放射線療法, 化学療法を加えても活性の低下しなかった6例中3例は1〜2ヵ月以内に死亡し, 活性の低下を見たものは1例を除いて2ヵ月〜2年8ヵ月を経過する現在すべて健在である. 又, 手術後1週間では大部分に活性の上昇を見たが, これは輸血及び腹腔内出血の吸収によるものであると思われる. 5. 卵巣癌患者腹水は非常に高いLDH活性を呈したが, 子宮筋腫患者の腹水はいずれもその時の血清中の活性と略同じで正常範囲内にあった. 従って腹水のLDH活性測定は, 又, 腹水の細胞診に際して, その補助診断となし得るものと考える.
- 1964-05-01
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