胎仔, 新生仔急性 Anoxia の病態生化学的研究 特に臓器毎のATP 濃度, Glucose量, 乳酸量の消長について
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概要
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Fetal Distress および新生児仮死の病態解明のためにR-III系マウスの胎仔および新生仔に急性 Anoxia を起こし, Anoxia 時および非 Anoxia 時の脳, 心臓, 肝臓, 胎盤など各臓器におけるATP濃度, Glucose量および乳酸量を測定し, 周産期における特有な代謝のエネルギー平衡を検討し次のような結果を得た. 1) 正常状態におけるATP濃度は, 胎仔では心臓 1.123μmoles/g.w.w., 脳 0.936μmoles/g.w.w. と高く, 肝臓 0.319μmoles/g.w.w., 胎盤 0.428μmoles/g.w.w. と低値を示し, 新生仔についてもこの傾向は同様であり, 肝臓の濃度の増加が見られた. 2) 正常状態における臓器 Glucose量は胎仔では肝臓 314.9mg/g.w.w., 心臓48.7mg/g.w.w., 胎盤15.1mg/g.w.w., 脳1.4mg/g.w.w. であり, 新生仔ではこれらより低値を示したがその傾向は同様であった. 3) 正常状態における乳酸量は胎仔では心臓21.29μmoles/g.w.w., 胎盤8.60μmoles/g.w.w., 肝臓7.33μmoles/g.w.w., 脳6.70μmoles/g.w.w.であり, 新生仔ではその傾向は同様であったが, その絶対量は胎仔の1/2〜1/5の低値を示した. 4) 以上のことから正常状態における胎仔, 新生仔間のエネルギー平衡には差はみられず, エネルギー代謝については胎仔は新生仔に比較し嫌気性解糖系に強く依存しているものと考えられる. 5) 急性 Anoxia により臓器ATP濃度は胎仔, 新生仔とも脳において対照値の約1/4〜1/6に激減したが, 心臓の減少度は比較的少なく, 肝臓は約1/2の減少にとどまった. 6) 急性 Anoxia により各臓器 Glucose 量は胎仔, 新生仔とも約1/2に減少したが, 脳および胎盤の減少は極めて低値を示した. 7) 急性 Anoxia により乳酸産生は各臓器とも胎仔では少なく, 新生仔ではその増加は極めて特徴的で対照値の約2〜4倍の高値を示した. 8) 以上のことから生命現象を維持する循環系機能は Anoxia によく耐えるが逆に脳におけるエネルギー平衡は最も強く障害され, 周産期脳障害の原因とも考えることができる.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1974-02-01