諸種条件下における胎盤の変化ならびにその脂肪通過に及ぼす影響について
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概要
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胎盤における生物学的物質輸送機構については中野らが脂肪乳剤をtracerとして電子顕微鏡的に観察し,取り込みの主なrouteはpinocytosisである事を述べているが,著者はこれに引き続き,人及び家兎胎盤に諸種の条件を与える事によって,脂肪の通過がいかに変化を受けるかを見た.まずpHについてみると,人胎盤のincubationではpH6.0, 9.0でSyncytium細胞のmicrovilliの膨化,短縮,細胞内では空胞増加,細線維構造の出現,Crista mitochondrialisの断裂などがみられ,これらはpH3.0では著しく強くなった.pHの変化によりpinocytosisの減少ないしは消失が起ったが意外にも細胞内の脂肪粒子はかえって増加した.これとやゝ似た現象は代謝阻害剤であるモノヨード酢酸及び2,4-dinitrophenolでも起った.一方ATPase阻害剤であるOuabainを負荷した場合には人胎盤(in vivo, in vitro)及び家兎胎盤(in vivo)のいずれに於ても甚だ興味ある所見が得られた.即ちOuabainの適当量によってSyncytium細胞内にdesmosomeと全く区別できない構造をもちかつ互いに近接する2枚の細胞膜様構造が発生し,時には細胞表面から細胞深部にまで達することさえあった.このものは我々のもっている知識からすれば細胞内に生じた細胞隔壁としか考えられない.又Ouabainによってmicrovilliの基底部細胞膜にtubular invaginationが生ずることも発見された.負荷された脂肪は既に知られているpinocytosisによって細胞内に取り込まれるほかに,これらOuabainによつて生じた構造物附近に脂肪粒子が散在するところから,これらの構造が脂肪粒子の通過路として意義を有するものと考えられる. なお家兎小腸における脂肪の取り込みを胎盤と比較すると胎盤の方が取り込まれる脂肪の粒子は大きく,又小腸では胎盤において見られたようなOuabainによる影響は殆んど見られなかった.これは腸と胎盤の物質の生物学的輸送機構がかなり異なるものである事を暗示している.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1967-05-01
著者
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