妊娠個体の必須脂酸に関する実験的研究 : 第1報 妊娠個体の各種飼育条件下における臓器組織総脂質量測定及び構成脂酸の検索
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概要
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妊娠個体においては非妊時と異なり, その代謝は特異的な様相を呈しており, その中でも脂質代謝に関しては従来それが障害されていると考えられていたが, 我が教室の共同研究者により逆に有効なエネルギー源として利用されていることが判明している. 体脂質はその使命により, 主としてエネルギー源として用いられるVariable elementと組織構成成分となる構造的ないしは機能的なconstant elementに大別されるが, 後者の中, 必須脂酸は生長発育に不可欠であり, 燐脂質, コレステリンエステル, Lipoproteinの構成成分として, また抗脂肝作用, Oxidative phosphorylation, 血管透過性との関連において, 極めて重要な生理学的, 栄養学的意義を持つていることが近時明らかになつて来た. よつて著者は妊娠時の必須脂酸代謝を中心に追究すべく以下の実験を行つた. 即ちウイスター系妊娠白鼡を標準食飼育, 飢餓, 脂肪乳剤静脈負荷の条件下におき, 各臓器組織について, 総脂質量を重量法により, 構成脂酸を井上, 野田, 平山氏のペーパークロマトグラフイーにより, 必須脂酸含量をAlkaline isomerizing spectrophotometric methode (Holman, Riemenschneiderの神藤氏変法)により測定し次の如き結果を得た. 1)妊娠白鼡の母体肝, 筋における脂質保有率はいずれの条件においても非妊時より大であり, 胎盤, 胎仔肝もかなりの含有率を示している. 飢餓では母体肝外組織の脂質の動員は非妊時より大で妊卵へそれが大量供給され, 乳剤負荷のもと, それが容易かつ速やかに母体肝外組織へ蓄積貯臓されると共に, 妊卵へも大量移行している. 2)標準食飼育時の母体肝, 筋の構成脂酸は非妊時と同様, ステアリン酸, パルミチン酸, ミリスチン酸, オレイン酸, リノール酸, リノレン酸等であるが, 妊娠時ではリノール酸, オレイン酸が非妊時に比し多量に含有されている. 3)総必須脂酸含量は, 妊娠時, 肝外組織において, いずれの条件においても非妊時より大である. 標準食飼育時, 妊娠肝ではリノール酸よりアラキドン酸への移行即ち必須脂酸の活性化が充進しており, 妊卵へ常時大量にアラドキン酸を供給している. 飢餓時では, 妊娠時肝外組織に蓄積されたリノール酸が非妊時より容易に肝へ動員され肝で活性化されて妊卵に供給しており, 乳剤負荷時では, 妊娠肝の活性化が更に充進, 妊卵へ大量に移行していると共にリノール酸は速やかに肝外組織へ移行蓄積される. 以上の成績より, 妊娠個体においてはいかなる条件においても, 必須脂酸自体の蓄積, 動員, 活性化が非妊時よりも有効活発に行われており, しかも妊卵へはそれが常時大量に供給されていることを推想した.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1966-09-01
著者
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