精神薄弱児における数概念の発達に関する研究 : 同一MAの正常児との比較
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概要
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同一MA(主としてビネー法による)の精神薄弱児とを対象として,数概念の発達を,a.事物相互の対応(事物の単純な対応づけ,2集合の相等判断および保存の成立),b.数詞による集合の大きさの把握(等質的分離量の計数,連続量の計数,および異質的事物の計数)の両面から比較検討した。被験者は,特殊学級在籍の精神薄弱児(MA3才∼10才)133名と正常児(MA,CAともに3才∼8才)69名である。主な結果として次の点が明らかにされた。 (1) 提示事物に単純に対応させて,等数量の事物をとり出す実験の結果,分離量(おはじき),連続量(テープ)のいずれにおいても,精神薄弱児が低MA段階で上位の傾向にあったが,発達の完成する段階および全般的な発達傾向は同じまたはほぼ同じである。 (2) 提示事物に数詞を対応させ,その集合の大きさを数詞で把握させる実験(上記bの検討に属する)により,等質的な分離量(おはじき)に関して,(1)と同様のことがいえる。 (3) しかし,他方提示事物に連続の要素が加わって,その集合の大きさを数詞で把握させる連続量(テープ)の場合とか,さらに分離量でも提示事物が,各種の形・大きさによる図形の場合になると,両対象児群間に有意な差が生じ,精神薄弱児が劣る。つまり,さきの2実験のように,提示事物が一様に均等で見なれたものであり,しかも個々に切り離され数えやすい分離量ならば,一対一の事物対応,数詞への抽象化による集合の把握が可能であるが,そこに認知上の要素が新たに加わって複雑になったり,種々の知覚的形態が伴なってくると,同一MAであっても,精神薄弱児の正答率が低下の傾向をとる(特に高MA段階において)。 (4) そこで再び事物の対応に関して,2集合間の相等判断と保存を検討したが(上記のa検討に属する),両実験において精神薄弱児が正常児に対し,おおむね1年∼2年の発達的遅れを示した。つまり数詞による集合の把握の場合に同じように,事物の対応に関しても,比較の条件が多くなったり,事物の属性に場面や形態的な変化が加わると,精神薄弱児が発達的に劣ることになる。 (5) 以上,a, b両検討の結果から,同一MAであって,普通一般には精神薄弱児がややまさるかほぼ同様の数行動を示したとしても,それは見かけに過ぎず,真の数の内面化,抽象化,一般化さらに概念化においては,精神薄弱児の方が正常児より劣るということがわかる。 (6) 今後の問題として,精神薄弱児の数行動が実験教育的指導によっていかに変化するか,またその点で正常児といかに異なるか,さらに数行動に関して教育的な見地から,MAが指標として有効か否かなどが,残されている
- 日本教育心理学会の論文
- 1967-03-31