土着の実践から民族医療へ : 近代医療との交差を中心として(<特集>民族医療の再検討)
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概要
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本稿は、民族医療が近代医療の都合で生み出されたという見方を手がかりとして、民族医療の研究において使われる分析モデルや概念、用語が近代医療によって規定されるようになった歴史を明らかにし、その現状の問題点を指摘した上で、民族医療研究を再構想するための見通しを示す。19世紀に植民地政府によって帝国医療が行われることで周縁化された非西洋の土着の実践に対して20世紀初頭に目が向けられることを通じて、民族医療というカテゴリーが生み落とされた。植民地政府が、民族医療の調査と管理に乗り出したのではない。民族医療の研究を統合し、発展させたのは、人類学とその周辺領域であった。マラヤにおける民族医療研究の事例が示すように、19世紀末から20世紀後半にかけて、土着の現象や実践は病理現象であると捉えられ、近代医療の分析モデルを用いて語られるようになった。土着の実践が非西洋におけるもう一つの医療として概念上医療化されたことを受け継いで、民族医療研究は今日、近代医療の分析モデルや概念を所与のものとして用いることで様々な困難に直面している。今後、民族医療というカテゴリーを用い続けるのであれば、民族医療研究の構制の組み換えが行われなければならない。そのためには、第一に、帝国医療以降、近代医療のグローバル化の過程に並行して、土着の実践に付加されていった西洋近代の側から発する期待や思惑を、整理した上でときほぐさなければならない。第二に、民族医療の研究者は、土着の実践が近代医療の道具的合理性を通じて組織される点を考慮して、用いられる分析モデルや概念が研究対象にとって適正であるかどうかを検討しておかなければならない。近代医療と交差する地点において民族医療研究を省察的に見究めることを通じて、民族医療と近代医療との間の距離を測る手続きを民族医療の研究過程の中に組み込んでいかなければならないのである。
- 日本文化人類学会の論文
- 2002-12-30
著者
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