中央アジアの乳加工体系 : カザフ系牧畜民の事例を通して
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概要
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カザフ系牧畜民の伝統的乳加工体系を把握するために現地調査を行い、その特徴を把握するためにカザフ系牧畜民の乳加工体系を中央アジアおよび中央アジア周辺地域において文献研究により位置づけた。カザフ族全体に共通している乳加工技術が、クリーム分離系列群と発酵乳系列群に属する馬乳酒作りである。カザフ族の乳加工体系は、このクリーム分離系列群と馬乳酒作りを基本とし、酸乳のチャーニングを伴う発酵乳系列群と凝固剤使用系列群の乳加工技術が局所的に発達している。先ず、カザフスタン東部から南部にかけて発達している乳加工技術が発酵乳系列群である。この地域では、酸乳をチャーニングすることによって、乳脂肪分の抽出が行われている。一方、西部から南東部にかけて分布しているのがレンネットを利用した凝固剤使用系列群の乳加工技術である。西部、北部、および東部にかけては、レンネットの代わりに酸乳を利用している。現在のカザフスタンにおけるカザフ系牧畜民の乳加工体系の特色をまとめると、西部、南部、および東部にかけては、北方の寒冷な地域の乳加工特性を継承しつつも、南方のペルシャを中心とした西南アジアの乳加工体系の影響を受け、北部では南方域の影響を強く受けなかったと結論づけられる。更に、本稿では、ユーラシア大陸乾燥地域における乳文化圏が大きく二元化していることを論考した。パミール高原を境に、北方域と南方域ではそれぞれ別々に乳加工が発達したとする仮説である。つまり、パミール高原から北方域の乳文化圏では、クリーム分離、クリーム加熱によるバターオイルへの加工、凝固剤として酸乳を用い、そして乳酒作りが、パミール高原から南方域の乳文化圏では、酸乳のチャーニングによる乳脂肪分の抽出、凝固剤としてレンネットを用いる乳加工が、それぞれ別々に発達したとする仮説である。
- 日本文化人類学会の論文
- 2002-09-30
著者
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