文化摩擦としての輸血拒否 : 日本におけるエホバの証人の輸血拒否をめぐる医療環境の変化について(<特集>先端技術と/の人類学)
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概要
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本研究は、エホバの証人の輸血拒否を、新しい医療技術の開発によって医療現場で生じた文化摩擦であると位置づけ、この問題をめぐる日本の医療環境の変化の過程を見ていくことにより、医療と技術と文化の関係を検討することを目的とする。エホバの証人(法人名、ものみの塔聖書冊子協会)は、19世紀末にアメリカで誕生したキリスト教系の宗教団体であり、血を食べてはならないという聖書の記述を根拠に医療現場で輸血を拒否することが、さまざまな国で社会問題になった。日本では、1985年交通事故に遭った小学生の輸血を両親が拒否し死に至ったことがマスコミで報道され、エホバの証人、信者である両親、輸血を強行しなかった医師等が非難の的となった。1990年前後から、輸血拒否問題をめぐる状況は大きく変わり始める。患者の自己決定権、インフォームド・コンセントといった概念が社会的に認知されるようになってきたが、これらの考え方はエホバの証人の輸血を拒否し「無輸血治療」を選択するという主張と合致するものであった。一方、薬害エイズ問題等で輸血や血液製剤の危険性が改めて注目されるところとなり、その回避にもつながる新しい薬剤や技術が開発されはじめる。その結果、輸血は人の生死を分ける唯一の選択肢ではなくなった。また協会はそのころ、新しい技術や無輸血治療に理解を示す医師等についての情報を信者に提供するなどして信者と医療の架け橋の役割を果たす、医療機関連絡委員会等の部門を設置する。結局、医療側とエホバの証人は、それぞれがいだく信念の直接衝突を避け、インフォームド・コンセントの枠組みを最大限に利用し、その場面でなされる利用可能な技術の選択という一般的なテーマに輸血拒否の問題を解消させる。その結果この文化摩擦は解決する方向に向かっているといえる。
- 2002-03-30
著者
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