カストムとファッシン : ソロモン諸島ヴァングヌ島における過去と現在をめぐる認識論的連関(<特集>カストム論再考 : 文化の政治学を越えて)
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概要
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本稿の目的は、「伝統」と「近代」という二分法的な枠組みを脱構築しようとする一連の議論に対して批判を表明することにある。1980年代に登場したポストモダン人類学と称される研究は、人類学がこれまで築いてきた既存の概念やものの見方を問い直してきた。その過程で「伝統」と「近代」という二分法は異文化の人々の他者性を本質主義的に規定するものの見方として批判の対象とされた。同様の傾向は、メラネシア地域を考察対象とするカストム論と呼ばれる研究分野にも認められる。1990年代以降のカストム論では、ポストモダン人類学のアプローチと平行する形で、「伝統」と「近代」という二分法を脱構築し、それらの融合を見出そうとする議論が支配的になりつつある。しかし、ソロモン諸島のヴァングヌ島の事例においては、「伝統的なもの」と「西洋的なもの」、すなわち「カストム」と「スクール」という二分法的な思考様式を見出すことができる。本稿では、そのような二分法が現地社会において構築される過程を「現在の生活様式」を意味するファッシンという概念との関連で考察する。その結果、ヴァングヌ島におけるカストムとスクールは排他的な関係にあるのではなく、従来の研究者が脱構築しようとした本質主義的な差異に基づく「伝統」と「近代」とは異なる形で展開されていることが明らかになる。こうした事例分析をとおして、現在のヴァングヌ島にみられる知的営為は「伝統」と「近代」という二分法的な枠組みを脱構築することなく、それを超克していることが示唆される。
- 日本文化人類学会の論文
- 2001-09-30
著者
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- 書評 Nidholas Thomas, In Oceania:Visions,Artifacts,Histories.Durham and London:Duke University Press,1997,15+267pp.