オオムギにおけるトリチウムβ線による内部照射の影響
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概要
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トリチウムβ線による内部照射が処理当代および後代の植物体に対して与える効果について二条オオムギを用いて実験を行った。 トリチウム標識のチミジンは細胞内のDNAへ特異的にとりこまれ,トリチウムの崩壊によってβ線を放出するためにトリチウムをとりこんだDNAはつねに0.016MeV/崩壊のβ線に曝され,遺伝情報の支持体であるDNAにおこる変化は個体に何らかの影響を与えることが期待される。 トリチウムにより標識されたチミジン(比放射能:23・3Ci/mmole)を実験Iでは授精後に,実験IIでは授精前花粉形成後)に第一節間へ一穂当り20μCiを注射して種子のDNAを標識した。収穫後次代の養成の時期をそろえるために実験Iの種子は21か月間,実験IIの種子はか6月間デシケータ中に保存した。 トリチウム標識のチミジンを注射した植物体は表現型において生育異常や障害はみとめられなかった。処理当代の種子についてトリチウムのとりこみを抽出したDNAについて測定したところ,とりこみ量はそれほど多くはなかったが,明らかにDNA中へとりこまれていることが確認された。種子の胚や胚乳の発育には大きい障害はみられなかった。 処理後第一代の種子の発芽率には著るしい低下はみられなかったが,収穫時の生存率は実験Iの方が実験IIより低く,葉緑体の異常は実験Iの方が著るしく高かった。実験IIで発芽率にくらべて葉緑体異常個体頻度が高かいことは,β線による内部照射が染色体切断などの大きい障害による優性致死よりも小さい障害を多く誘発しているためと考えられた。貯蔵期間の長い方,すなわち内部照射量の多い方がその影響が大きいようであった。 第二世代における種子稔性も内部照射量に依存しているようであった。しかし第二世代における変異体は全体の頻度では両実験群ともに大差はなかった。形態変異(waxless)が実験IIのみに誘発されたがこの原因については明らかでない。本実験と同様な処理で得られる変異体の頻度はチミジンの量や,処理時期(配偶子の発育段階)などの変更や,貯蔵条件などの変化によりさらに増大させ得ることができると考えられる。
- 1975-04-30
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