各種食品における咀嚼力の三次元的発現様相
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概要
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咀嚼力に関する報告は, 咀嚼機構の解明という歯学の発展にとって極めて重要な事項であることから従来より咀嚼筋筋電図, 咀嚼能率, 咀嚼経路などからの間接的な観察で数多くなされている. しかしヒトの咀嚼系の調節機構により制御される現実の食品咀嚼時に発現する咀嚼力の食品差について追究している報告は, 非常に少ない. そこで本研究は, 咀嚼力における食品差を解明する目的でヒトの下顎第一大臼歯に超小型の三分力計を組み込み, 三次元的な咀嚼力を観察した. 被検者は顎口腔系に異常を認めない個性正常咬合者で, 下顎第一大臼歯に根管処置歯を有する成人男女3名(平均年齢25歳)とした. 被検食品はあらかじめ予備実験にて成人の一口量を求めた6食品, すなわちビーフジャーキー(3g), ピーナッツ(4g), りんご(17g), かまぼこ(11g), カステラ(11g), チーズ(7g)とした. 実験は, 下顎第一大臼歯髄室内に咀嚼力測定用の三分力計を組み込み, 上部にFGPテクニックを用いて作製した咬合面をとりつけ, 同部で被検食品を咀嚼させ同時に両側咬筋筋電図を記録し, 当教室で開発した咀嚼力測定システムを用いて分析した. また, 実験後に各被検者で被検食品別にアンケート形式の5段階評価で硬さの食感スコアを記録した. その結果以下のような知見を得た. 1.各被験食品の嚥下に至るまでの咀嚼回数, 咀嚼力合力力積, 作業側咬筋筋電図積分値を観察した. ビーフジャーキーで咀嚼力合力が他の食品より際だって大きな値であったが咬筋筋電図積分値では咀嚼力ほども大きな差がなかった. 2.咀嚼の進行段階を5期に分けて咀嚼力の合力と咬筋筋電図の推移を検討した. その結果, 咀嚼力合力, 咬筋筋電図いずれについても持続時間には, 合力力積や, 咬筋筋電図積分値で観察されるような大きな食品差はみられなかった. また, 両者にはそれぞれの被検食品で特徴ある咀嚼の進行に伴う物理性状の変化が反映されていた. 3.各ストロークごとに咀嚼力の合力力積と作業側咬筋筋電図積分値の相関関係を散布図に表わし分析した. 相関係数の値から, 被検食品は特徴ある差を示し, 3群に分けることができた. また, 回帰直線の傾きにもほぼ硬さの順に小さい値を示し食品差が観察された. 4.咀嚼力合力の単位時間当たりの力積はビーフジャーキー, ピーナッツの2つの硬性食品とりんご, かまぼこ, カステラ, チーズの軟性食品の2極化した発現様相を示したが, 対応する咬筋筋電図の単位時間当たりの積分値は同じような発現様相を示さなかった. 5.食品咀嚼時の垂直力の力積に対する側方力の発現様相を比較すると, 絶対値では垂直力で大きな値を示すビーフジャーキーやピーナッツは側方力でも大きな値を示したが, 比率にすると側方力の発現に大きな食品差はみられなかった. 6.任意の咬みしめを行わせた結果, 側方力は垂直力に追随するような増大を見せなかった. またこのときの力積を比率で示すと各被検者とも側方力は1/5程度の小さな値であった. 以上のことから, 下顎第一大臼歯における咀嚼力には, 食品の性質の違いを反映し, 食品の上下咬合面間に介在する食品固有の物理的性質や咀嚼の進行に伴う食品性状の変化に対応して, 主として咀嚼系の感覚受容器によるフィードバック機能を介しての神経筋機構の働きで合目的的に力の方向や大きさが巧みに調節されていることがその食品差から明らかになった.
- 1995-04-25
著者
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