抜歯創治癒過程における basic Fibroblast Growth Factor
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概要
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basic Fibroblast growth factor (bFGF)は, 細胞増殖, 血管新生, 発生途上における中胚葉の誘導と分化, 神経栄養などの因子として作用する. そのため潰瘍, 骨折, 心筋梗塞, リウマチなどの治療への応用が考えられ, 創傷治癒と関連が深いことがいわれている. 抜歯創の治癒過程において形成される骨は膜性骨であり, その肉芽組織形成から骨形成に至る過程にbFGFの関与が予想されるが, bFGFの作用を検索したものは少ない. 軟骨を介さずに生じる骨形成は血管の分布状態によって影響されると考えられている. とくに血管の新生に深く関与するのはbFGFである. そこで, 膜性骨化による骨形成および血管新生とbFGFの役割とを明らかにするためにラット抜歯創におけるbFGFおよびそのレセプターであるFGF-Rならびに骨形成と関連するALP活性を検索した. 5週齢の Sprague-Dawley系ラットの下顎左側第一臼歯を抜歯し, 反対側の右側第一臼歯を無処置対照とした. 抜歯直後, 3, 7, 14および28日後にラットをそれぞれ安楽死させ, 下顎骨を摘出して脱灰パラフィン切片, カルセインラベリング研磨標本および脱灰凍結切片を作製した. 脱灰パラフィン切片にはヘマトキシリン・エオジン染色を行い, 脱灰凍結切片には免疫組織化学的にbFGF, FGF-Rあるいは酵素組織化学的にALPをそれぞれ検出し, 下顎第一臼歯遠心根歯槽窩を観察した. 新生血管は, 抜歯後3日には抜歯窩底部から生じ始め, 7日後には窩内を満たした. 14日後には窩内の血管分布は一様になった. 骨形成は, 抜歯後7日には抜歯窩底部から生じた. 14日後には窩内はほとんど骨組織で満たされ, 28日後には抜歯窩は周囲組織と区別しにくくなった. bFGFの局在は抜歯後3日に強く認められたが, 7日以降では弱くなった. FGF-Rの局在は抜歯後3日に線維芽細胞, 7日後に内皮細胞および14日後に骨芽細胞にみられたが, 抜歯直後と28日後にはみられなかった. ALPの局在は抜歯3日後に窩底部に観察され始め, 7日後には強くなり, 14日後には新生骨周囲の骨芽細胞に最も強くなった. 線維芽細胞, 内皮細胞および骨芽細胞の培養時に添加されるbFGF濃度は, それぞれ25, 1〜25および0.1〜1ng/mlである. つまり, 線維芽細胞, 内皮細胞および骨芽細胞を培養するのに適したbFGF濃度はそれぞれ異なり, しかもその濃度はこれらの細胞の順に低くなっている. 以上のことから, 肉芽期の抜歯創に局在したbFGFは, 消費され次第に濃度を減じ, 線維芽細胞, 内皮細胞および骨芽細胞を順に活性化する. このようにして抜歯窩内に骨が形成されると考えられる.
- 大阪歯科学会の論文
- 1995-04-25
著者
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