咀嚼力の3次元的発現様相に関する研究 : 咀嚼の進行に伴う変化
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概要
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咀嚼運動についてこれまでに EMG, 下顎運動, 歯の変位, 咀嚼力など多くの研究が行われてきた. これらのなかでも咀嚼力の測定は下顎運動に調和し, 歯周組織に負荷の少ない咬合面形態を考えるうえで重要視され, 補綴学的にも興味深いテーマである. しかし咀嚼力の測定は, 装置製作の難しさから, これに関する報告は少ない. 今回, 咀嚼力測定用センサを用いて3次元的な咀嚼力を測定し, 咀嚼力の方向と量について分析し, 咀嚼の時期によりどのように変化するかを観察した. 実験に用いたのは, 教室の豊田が開発したセンサに新たに改良を加えたものである. 本センサを4名の被検者の根管処置済みの下顎第一大臼歯に組み込み, レーズンおよびピーナッツ咀嚼時の咀嚼力について, 咀嚼開始の第1ストロークから嚥下までの全ストロークを MKG 下顎切歯点運動とともに記録し, 各分力と合力のピーク値, カ積, 持続時間お上び咀嚼カベクトルの変化について分析した. 咀嚼の進行に伴う食品の破砕につれて, 咀嚼力の合力と各分力は, そのピーク値や力積, 持続時間を含めて減少する傾向を示した. そして, 咀嚼の初期では咀嚼力の垂直成分が多く発揮され, 咀嚼の進行に伴い側方成分の比率が増加して, 食品を効率よく咀嚼していると考えられた. 一方, 各側方力は, 垂直力の1/4から1/30と小さく, 経時的には垂直力にみられるような大きな変化は示さなかった. 咀嚼の1ストロークにおける咀嚼力を咀嚼カベクトルで観察すると, とくに咀嚼初期では, 閉口相終末の crushing phase で大きな垂直力が発現するため, 咀嚼力は直線的に垂直方向を向く様相が認められた. このことは, 下顎の作業側移動に伴う下顎の安定と咀嚼効率に関連しており, さらに歯根膜の鋭敏な感覚が歯に加わるカの大きさと方向を感受し, 過大な側方力の発生を防ぐように顎運動をコントロールしている可能性が示唆された. 一方, 咬合相では, crushing phase での粉砕に対して, 咬合面形態の影響を受け, ベクトルの方向の変動が大きくなり側方圧が発現する臼磨様運動を行っている様相が推察された. 以上より, 咀嚼の進行に伴う食品性状の変化と呼応して, 咀嚼力の発現が変化する様相が明らかとなった. また, 1ストローク中においても咀嚼運動において粉砕と臼磨というそれぞれの役割に応じ2つの咀嚼力の発現様式が区分され, 有効に咀嚼機能を営んでいることが示唆された.
- 1994-04-25
著者
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