ヒト唾液タンパク質の合成ハイドロキシアパタイトへの吸着
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概要
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エナメル質に唾液が接触すると, エナメル質歯面上にぺリクルが生成される. このぺリクル形成メカニズムに関するこれまでの研究の多くは, 市販タンパク質を使用して進められてきたものである. 本研究では, ヒト唾液から分画した唾液タンパク質と合成ハイドロキシアパタイト (以下HApと略す.) との吸着相互作用について生化学的および物理化学的に検討した. なお, 対照実験として, 市販タンパク質 (ウシ顎下腺ムチン, ヒト唾液 s-IgA, ヒト血清アルブミンおよびヒト唾液 α-アミラーゼ) についても, 同様に実施した. 反射全唾液ほゲルろ過により4画分 (高分子側から, 順次 A2, B2, C2 および D2 の各画分とする.) に分画したのち, 各画分の生化学的性状を SDS-PAGE, ウエスタンブロッティングならびに糖およびアミノ酸組成の分析から検討した. その結果, B2画分は, ヒト唾液 s-IgA と一致する分子量をもつ糖タンパク質であり, C2画分はヒト血清アルブミンと一致する分子量をもつ糖結合タンパク質であることが明らかになった. A2画分はウシ顎下腺ムチンに相当する糖タンパク質のほかに sIgA を, D2画分はヒト唾液 α-アミラーゼのほかに高プロリンタンパク質, 高プロリン糖タンパク質および高ヒスチジンペプチドなどに相当すると考えられるタンパク画分を含んでいた. 10mMトリス-塩酸緩衝液 (pH7.0) で調製した各濃度の唾液タンパク質各画分溶液および市販の各タンパク質溶液に HAp を24時間分散させると, 各タンパク質の HAp への吸着量は, タンパク濃度に比例して増加した. また, HAp 分散前後の各タンパク質溶液のアミノ酸組成を比較すると, 分散後では Pro を主体とする非極性・中性アミノ酸が減少しており, 唾液タンパク質の吸着は, これらのアミノ酸の疎水結合によって支配されているものと推定された. 各タンパク質を吸着した HAp およびその分散媒である各タンパク質溶液中のタンパク質の zeta 電位を, それぞれレーザー光源付き顕微鏡式電気泳動装置および光散乱式電気泳動装置を用いて測定した. その結果, HAp の zeta 電位は, タンパク濃度が増加すると高くなり, ある濃度以上になると一定の値を示した. この値は, 各タンパク質の zeta 電位と近似していた. 以上の zeta 電位の測定結果から, 唾液タンパク質各画分の HAp への吸着は, タンパク質の濃度が低い初期吸着過程ではラングミュアー型の単分子吸着を示し, 高濃度では多層吸着することがわかる. しかし, 多層吸着によって吸着タンパク量が増加しても, HAp 表面の電位構造は吸着タンパク質そのものによって支配されているので, 高濃度におけるタンパク質吸着現象を解明するには, 比色定量法によるタンパク量の測定と顕微鏡式電気泳動法による zeta 電位の測定とを併用するのが有効であるといえる. これらの所見は, HAp への唾液タンバク質の吸着が, 静電気学的相互作用および疎水性相互作用に支配されていることを示している.
- 1994-04-25
著者
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