ラットの上顎歯列側方拡大が頭蓋顔面の成長発育に及ぼす影響について
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概要
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矯正歯科治療における上顎歯列側方拡大法は狭窄を呈する上顎歯列弓を側方に拡大する方法である. この方法の歴史ほ古く, Angellが1860年にexpansion screwによる治療を報告して以来, 多くの臨床的, 実験的研究がなされてきた. 上顎歯列急速拡大を行うことにより, 鼻腔底, 歯槽骨側壁, 上顎骨と口蓋骨の口蓋面, 眼窩壁など頭蓋顔面の広範囲に拡大力の影響が及んでいることが報告され, また外力による拡大を受けた成長期の縫合部では, 外力を受けない縫合部よりも活発な組織反応や改造現象がみられることが明らかにされている. このように上顎歯列側方拡大法は, 頭蓋顔面の成長部位になんらかの影響を与えていると考えられるが, その後の成長に対する影響については明らかにされていない. 本研究では, 成長発育期のラットの上顎歯列に側方拡大力を加え, その後の頭蓋顔面の成長発育を形態学的および組織学的に検討した. 材料および方法 1. 実験材料 実験動物には, 生後4週齢, ウイスター系雄性ラットを実験群60匹, 対照群75匹を用いた. 2. 実験方法 実験群の上顎切歯間に0.01インチの矯正線で作製したへリカルループを歯科用レジンで固定し, 切歯間を1週間拡大した. へリカルループは初期加重を50g, 最大拡大幅を4mmに調節した. 矯正力を除去した直後, 3週, 6週, 9週後に屠殺し, 上下および側方方向の頭部軟エックス線規格写真撮影を行った. 撮影されたエックス線フィルムを5倍に拡大して形態分析を行い, 対照群と実験群とを比較検討した. また, ボーンマーカーとして,実験期間中にテトラサイクリンとカルセインの2種類の硬組織ラベリング剤を用いて組織学的に検索した. 実験結果 1. 上顎切歯間の側方拡大は正中口蓋縫合を離開させ, また頭蓋顔面複合体の広範囲に影響を与えていた. 2. 装置装着期間中の実験群の切歯萌出量は対照群に比較して, 減少が認められた. 装置撤去後も実験群の切歯萌出量は対照群と比較して小さい傾向を示したが, 成長とともに徐々に萌出量の差はなくなり, 11週齢においてはほとんど差は認められなかった. 3. 上顎切歯間の拡大1週間(生後5週齢)での頭蓋前方部の幅径は, 実験群が有意に大きな値を示した. 拡大装置撤去3週, 6週, 9週においても, 頭蓋前方部の幅径は実験群が有意に大きな値を示し, 装置撤去後, 実験群の頭蓋幅径は対照群より増大する傾向が認められた. 4. 上顎切歯間の拡大1週間(生後5週齢)での頭蓋高径と長径は, 実験群と対照群との有意の差は認められなかった. 拡大装置撤去3週, 6週, 9週においては, 頭蓋高径と長径は実験群が有意に小さい値を示し, 装置撤去後, 実験群の頭蓋高径と長径は対照群より減少する傾向が認められた. 以上の結果から, 成長発育期における上顎歯列の側方拡大は, その後の頭蓋顔面の成長方向に変化をもたらすことが示唆された.
- 大阪歯科学会の論文
- 1993-08-25
著者
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