老化促進モデルマウスの中枢神経系組織におけるヒアルロン酸およびコンドロイチン硫酸糖鎖の加齢変化
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概要
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免疫組織学的研究法の進展によって, コンドロイチン硫酸(CS)やヒアルロン酸(HA)が, プロテオグリカン(PG)の形あるいは細胞表層のリセプターと結合した形でヒトをはじめ各種動物の中枢神経系(CNS)組織に局在し, 神経系細胞の増殖, 移動, 分化の制御に関与していることが明らかにされつつある. しかし, 加齢に伴うCNS組織におけるこれらの分子レベルの変化や役割はまだ不明である. 本研究では, 老化促進モデルマウス(SAM)-P/8//Odu(P系)およびその対照のSAM-R/1//Odu(R系)の大脳を用いて, CSおよびHAの加齢に伴う質的, 量的変化を糖鎖構造の解析から追究した. 7, 17, 27, 37週齢の両系統雄マウス大脳脱脂乾燥試料から, 熱処理, NaOH処理, プロナーゼ消化, CPCおよびエタノール沈でんで抽出精製したグリコサミノグリカン(GAG)を生化学的に分析し, 以下のような所見を得た. セルロースアセテート膜電気泳動でGAGを分離すると, 両系統ともおもな構成分子種としてCSとHAが同定され, ヘパラン硫酸(HS)は極微量成分にすぎなかった. また, ヒアルロニダーゼSDとコンドロイチナーゼACIIでGAGを同時消化し, CSおよびHA糖鎖から生成される不飽和二糖をHPLCで分離, 定量したところ, 両系統の各週齢とも, CS糖鎖を構成するおもな二糖成分はΔDi-4Sで, 微量成分としてΔDi-0SとΔDi-6Sが混在することが明らかとなった. ΔDi-6Sは両系統の7週齢ではΔDi-0Sとほぼ同量存在していたが, 加齢に伴って急激に減少し, 37週齢では検出できなかった. 各二糖成分(ΔDi-HAを含む)量はどの週齢においてもP系ではR系より少なかった. 組織機能を反映するHA/CS比は, R系では7週齢から27週齢まで増加傾向を示したが, P系では7週齢ですでにR系の27週齢と同程度の高値を示し, 37週齢でも係留していた. SAM-P/8系は正常な発育・成長過程を経たのち, 脊椎前後彎曲などの一般的な老化徴候を急速に発現するとともに, CNS組織の形態変化を伴う学習・記憶障害を引き起こすことが知られている. 本研究で得られたP系におけるCSおよびHA糖鎖の7週齢からの質的, 量的変化は, CNS組織におけるミクロ環境の維持と制御に変動をもたらし, その変動はさらに加齢に伴って進展する学習記憶機能の低下を誘発する要因の一つになっている可能性があることを示唆するものである. また, 主として生体膜(基底膜)に分布するHSがP系においてもR系と同様に極微量しか存在しなかった所見は, ニューロンやβ-アミロイド蛋白沈着部位に早期にHSPGが蓄積していくアルツハイマー病とは異なる所見であり, SAM-P/8系はアルツハイマー型老年性痴呆のモデルにはなり得ないことを示している.
- 1993-08-25
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