ヒト上顎犬歯への圧刺激が下顎開閉口運動に及ぼす影響
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概要
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ヒトの歯根膜機械受容器からの求心性情報が閉口筋筋活動に促進的な影響を与えることは, 主として咀嚼筋の等尺性筋収縮における筋電図の興奮性応答から明らかにされている. しかし下顎運動時の等張性筋収縮での報告は見あたらない. それは下顎運動中の等張性筋活動は等尺性筋活動に比べて筋活動量が微小であり, 下顎運動中の変化を筋電図より客観的に同定することが困難なためであろうと考えられる. 著者は顎筋群の統合的な活動は結果として下顎運動路に収束されることに着目し, 運動路の変動を分析することによって, 逆に顎筋活動の変化を推察することができると考えた. そこで本研究では, ヒトの上顎犬歯への圧刺激による下顎開閉口路の変動を観察した. 顎関節や咀嚼筋に異常を訴えない正常有歯顎者21名を被検者(22〜28歳)として, 歯の接触のない習慣的な下顎の連続開閉口運動を行わせた. すなわち閉口時に下顎を咬頭嵌合位付近にまで可及的に戻すような運動で, 閉口位と開口位の間を連続的に繰り返す下顎開閉口運動である. 被検運動の開口量を2種類(最大開口位までと被検者が自覚する中等度の開口位まで)とし, 圧刺激の方向を, 口蓋から唇側の方向(D1)と唇側から口蓋側への方向(D2)の2種類とした. 被検者16名で持続的な圧刺激量を約700〜800gfとした場合の下顎開閉口運動路の変化を圧刺激を加えないときの開閉口運動と比較した. 同時に圧刺激方向, 開口量の影響も検討した. さらに, そのうちの被検者12名で開口量や閉口時の咬合接触の有無による開閉口運動への影響を調べた. また被検者5名では被検運動中に0〜500gf間の9種類の圧刺激量をそれぞれ持続的に加え, 圧刺激方向も変えて, 下顎の開閉口運動の変化を観察した. その結果, 約700〜800gfでの圧刺激では下顎開閉口運動路は, 側方的には圧刺激側に偏位し, 前後的には前方へ偏位する一定の傾向が明らかとなった. そのときの側方および前後的な偏位量は被検運動の開口量や咬合負荷で異なり, 開口量が大きい場合やまた0〜500gfの圧刺激量では, D2では圧刺激側への偏位傾向を示したが, D1では逆に非圧刺激側へ有意に偏位し, 前後的な偏位ではいずれの刺激方向でも前方に偏位していく傾向を示した. なお圧刺激量の減少にともなって, D1およびD2ともに側方偏位量は有意に小さくなった. 上記の結果から, 圧刺激方向や圧刺激量によって有意に偏位傾向が異なること, また開口量の増大や閉口時の咬合接触によっても影響を受けることがわかった. 犬歯への圧刺激によって下顎連続開閉口運動路が側方や前方へ偏位したことは, 基本的に下位脳幹のrhythm generatorで中枢性にコントロールされている下顎運動が, 末梢の歯根膜機械受容器からの求心性情報によってmotoneuron poolの興奮性が変化し, 偏位したためと考える. すなわち歯の圧刺激がどの筋へどの程度の影響を及ぼしているかは特定できないものの, これらの顎筋群の協調的活動パターンの変化によって下顎が偏位したことは想像に難くない. 本実験結果より得られた上顎犬歯への圧刺激に伴う下顎の開閉口運動路の変化は, 等張性活動時の筋電図的には捉えることの困難な微小な筋活動の変化を下顎運動経路の変化から明らかにできたと考える.
- 大阪歯科学会の論文
- 1993-04-25
著者
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