咀嚼運動における咬筋のエネルギー代謝
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概要
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咀嚼運動における咬筋の機能的な役割について筋電図学的に, あるいは酵素組織化学的にこれまで研究されてきた. しかしながら, 筋電図による研究では咀嚼運動と咬筋のエネルギー代謝状態との関係を把握できず, また組織化学的な研究では摘出咬筋を用いるため, 経時的な観察は不可能である. そこで, 本研究では咀嚼運動に伴うラット咬筋のエネルギー代謝状態を^<31>P-MRSを用いてin vivoで観察し, 咀嚼サイクルや咬合圧の違いによる咬筋のエネルギー代謝状態および細胞内pH(pHi)への影響と, 咀嚼リズム形成への関与について検討した. ^<31>P-MRSを用いて筋エネルギー代謝を測定するときには, 覚醒下の要因を除去するため, 麻酔下での運動負荷を与えて測定しなければならない. そこで咀嚼様運動負荷条件として一連の咀嚼時間, 咀嚼サイクルおよび咬合圧を考え, これらの条件を覚醒時のラット咬筋に縫着したフォーストランスデューサ(スターメディカル社製F-041S)からの咬筋歪み信号により求めた. しかしながら, フォーストランスデューサは磁性体であるため, その縫着は^<31>P-MRS測定のアーチファクトになる. またフォーストランスデューサの縫着部位の違いによっても歪み信号強度に個体差が生じるので, 歪み信号をすべて咬合圧に換算してデータを解析する必要がある. そこで歪み信号強度と咬合圧との関係を求めて高い相関性が得られること, さらに信頼できない咬合圧が咬合圧頻度構成に影響を及ぼさないことを確認したうえで, 歪み信号から得た咀嚼時間, 咀嚼サイクルおよび咬合圧を咀嚼様運動負荷条件として麻酔下ラットに負荷した.その際の咬合圧は咬合圧センサーで確認した. MR測定装置は横型超伝導磁石NMR(GE社製, CSI-II, 4.7テスラ)で, 測定条件は, パルス幅20μs, パルス間隔2s, 加算回数100回, 測定時間4分とした. 測定は刺激前(4分間×1回), 刺激中(4分間×8回), および刺激後(4分間×2回)経時的に行った. 咬筋のエネルギー状態はクレアチンリン酸(PCr)と無機リン酸(Pi)の共鳴線の面積と化学シフト値で解析した. また, pHiはPiの化学シフト値から計算した. PCr/Pi比とpHiは, それぞれ時間経過で得られるため, 時間要素による一元配置分散分析を用いて, それぞれの刺激時間中に経過時間がPCr/Pi比とpHiの変化にどう関係しているかを検討した. 咬筋の歪み信号解析の結果, 最長の一連の咀嚼時間は32分5秒であり, 咀嚼様運動負荷条件としての刺激時間を, 最長咀嚼時間に相応する32分とした. 歪み信号の周波数分析の結果, 平均周波数(MPF)は5.04Hz(標準偏差0.40)であり, MPFを中心とする咀嚼様運動負荷条件としての刺激周波数を5±2Hz,つまり3,5および7Hzとした. また, 咬合圧の最多頻度が40g, 信頼できる最大咬合圧が90gであったことから, 咀嚼様運動負荷条件として40gと90gに咬合圧を設定した. これらの条件で^<31>P-MRS測定の結果,刺激の時間経過に伴って危険率5%で有意な変化を示したPCr/Pi比は, 40g-7Hz, 90g-3Hz, 5Hzおよび7Hzの刺激条件の場合であった. 一方, 危険率5%で有意な変化を示したpHiは, 90g-7Hzの刺激条件の場合のみであった. このことから, 咀嚼時の咬筋の平均的運動は, 筋細胞の有酸素的エネルギー供給能力によって継続的に維持されることが明らかとなった. さらに, 咀嚼時のリズミカルな顎運動を形成する咀嚼サイクルや咬合圧は, 咀嚼の1サイクルに必要なエネルギーを供給できる範囲で決定されていることが示唆された.
- 大阪歯科学会の論文
- 1993-04-25
著者
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