線毛を有する口腔レンサ球菌の赤血球凝集性と疎水性
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概要
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感染の第1段階は, 細菌の宿主組織への付着で, 細菌表層のadhesinと総称される物質が関与している. 線毛は重要な位置をしめ, 形態学的特徴, 化学的構造, 生物学的性状などの研究が行われているが, グラム陰性菌の報告が多く, グラム陽性菌では一部に限られており, う蝕発症との関連から, S. mutansの研究が中心である. また, 線毛を有する他の口腔レンサ球菌の形態的特徴, 付着性状などは, 研究者間で必ずしも一致していない. レンサ球菌の線毛は周毛性と局在性に分けられ, 密度や長さが異なる形態的特徴をもっており, Handleyらは, S. sanguisの線毛形態を7 typeに分類している. 本研究は, 線毛を有する口腔レンサ球菌の形態的特徴, 菌種の同定と赤血球凝集性および疎水性について検討し, その付着性状を明らかにすることを目的とした. 1. 電子顕微鏡観察により, 線毛を有するレンサ球菌を選び, -20℃で保存した. 舌背からは120株が分離され, Handleyらの分類で周毛性線毛のtype Aと, 局在性線毛のtype Dおよびtype Eに判別された. Type Aは97株と最も多く, type Dは16株, type Eは7株であった. 線毛の長さは51〜100nmと151〜200nmにピークを示した. 2. 表現形質による同定はBergey's manual of systematic bacteriologyに従った. Fructan産生性ではtype Aが97株のうち70株が産生, 27株が非産生であった. Type Dでは16株, type Eも7株すべてが非産生性であった. 産生性の70株はMSA上のコロニー形態からもS. salivariusと鑑別された. しかし, 非産生性株はS. sanguis, S. oralis, S. mitisのいずれかは鑑別できなかった. 3. DNA相同性による同定は, 江崎らの方法に従い標準株にはATCCおよびNCTCを, 陰性対照にはEscherichia coli Bを用いて菌種を同定した. Type Aのうち, fructan産生株の70株はすべてDNA-DNA hybridizationでS. salivarius標準株に相同性がみられた. Fructan非産生株のうち, 26株がS. oralis標準株と相同性を示したが, 1株は同定できなかった. Type Dの12株はS. oralisの標準株と相同性がみられたが, 4株は同定できなかった. Type Eの7株はすべてS. oralis標準株と相同性がみられた. 4. 赤血球凝集性試験は, Leungらの方法に従い, 活性は, 凝集が観察された最大希釈倍数の逆数で表わした. 家兎赤血球では, 分離菌120株のうち, 17株が陽性を示し, S. salivarius 70株のうち15株, S. oralis45株のうち2株で, 活性はすべて2以下であった. また, ヒト赤血球に対する凝集性は認められなかった. 5. 疎水性試験はWestergrenとOlssonの方法に従い, hexadecaneを加えて攪拌後, 水層の吸光度の減少を測定した. S. salivariusの平均値は37.1%, S. oralisの平均値は40.8%であった. 両菌種とも多くの菌株で減少率が大きく, 疎水性が高いことを示した. 6. S. salivariusとS. oralisとの付着性状, typeによる付着性状の成績に一定の関連がないことから, 付着には複数の要素が絡むものと考えられる.
- 大阪歯科学会の論文
- 1992-08-25