学童期小児の唾液中におけるpenicillin G耐性菌の分布

概要

論文の詳細を見る
β-Lactam剤は選択毒性が高く, ヒトに安全な抗生剤であるため消費量が増加している. この増加に伴い, β-lactam剤耐性菌の分離頻度が成人で高くなり, 耐性機構にβ-lactamaseが深く関与していることが, 歯科領域でも明らかにされている. 小児では唾液から分離したPrevotella intermediaからβ-lactamase活性が検出されたとの報告はみられるが, 口腔常在菌叢に占めるβ-lactam剤耐性菌の分布や耐性機構に関する報告はほとんど認められない. そこで, 本研究では, penicillin G (PCG) 添加培地を用いたスクリーニング法で, 健康な学童期小児の唾液中に占めるpenicillin G耐性菌 (PCG耐性菌) の分布を明らかにするとともに, β-lactamase産生性を検討した. 材料および方法被験者は, 大阪歯科大学附属病院小児歯科に来院した7〜12歳の小児, 9人とした. 各被験者の無刺激唾液を嫌気ボックス内で希釈後, CDC処方血液寒天培地と10μg/ml PCG添加同培地 (PCG培地) にそれぞれ塗抹し, 嫌気培養した. 総菌数は血液寒天培地に, また, PCG耐性菌 (最小発育阻止濃度 ; MICが0.4μg/ml以上で発育した菌株) 数はPCG培地に発育したコロニーから求めた. 属および種を同定後, MICはWilkins-Chalgren寒天培地を用いて寒天平板希釈法で測定しβ-lactamase活性はβ-チェックで調べた. 結果 1. 0.4μg/ml以上で発育するPCG耐性菌のスクリーニング頻度は症例あたり79.2〜100.0% (平均95.0%) であった. 2. PCG耐性菌は全症例から分離され, 症例あたりの菌数は3.0×10^2〜6.9×10^4CFU/mlで, 各症例の総菌数に対して0.01〜0.99% (平均0.29%) を占めた. 3. PCG耐性菌のうち偏性嫌気性グラム陰性桿菌は症例あたり73.7〜100.0%を占めた. 4. PCG耐性を示す偏性嫌気性グラム陰性桿菌の中ではPrevotellaが各症例あたり40.8〜93.8%認められ, 70%以上を占める症例が9症例中7症例見られた. Prevotlla以外ではBacteroides, LeptotrichiaおよびFusobacteriumが分離された. 5. Prevotellaを同定すると, P. melaninogenicaとP. loescheiiが優位に分離された. 6. PCG耐性菌に占めるβ-lactamase産生株の症例あたりの比率は偏性嫌気性グラム陰性桿菌では43.5〜100.0%で, β-lactamaseの種類はcephalosporinaseが多かった. P. melaninogenicaでは9症例中8症例からβ-lactamase産生株が分離され, PCG耐性菌に占めるその割合は50.0〜100.0%, P. loeschiiでは同25.0〜100.0%であった. 通性嫌気性グラム陽性球菌と桿菌およびグラム陰性桿菌でも多数のβ-lactamase産生株が認められた. 7. PCGのMIC分布において100μg/ml以上で発育した61菌株に対する供試薬剤のMICを調べた結果, 全供試薬剤に耐性を示した菌株は61株中22株 (36.1%) 分離され, そのうちすべて100μg/ml以上で発育する菌株が7株検出された. β-lactam剤の中では, CMZのMICが小さく, 50μg/ml以下のMIC値を示す菌株は34株 (55.7%) 分離された. 以上の結果は健康な小児唾液中にPCG耐性菌が存在し, 耐性機構にβ-lactamaseが深く関与していることおよびPrevotellaが耐性化しやすいことを示唆している. したがって, 小児の口腔感染症の治療にあたっては, β-lactam剤投与による口腔常在菌の耐性化に注意を払いつつ薬剤の選択を行わなければならない.
大阪歯科学会の論文
1992-04-25

著者

大宮真紀
大阪歯科大学

学童期小児の唾液中におけるpenicillin G耐性菌の分布

スポンサーリンク

概要

著者

関連論文

スポンサーリンク