実験的糖尿病ラット咀嚼粘膜コラーゲンのグリケーション
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概要
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一般にたんぱく質は還元糖のアルデヒド官能基と非酵素的に結合する. このグリケーションはメイラード反応と呼ばれ, 生体内で酵素の関与をうけることなく, アルデヒド官能基の濃度と接触時間に依存した一連の反応を誘導する. 反応の後期過程では複雑な生成産物を生じ, あるものは特異な蛍光をもち, あるものはペプチド鎖間にクロスリンクを形成する. しかし, 反応の後期過程の詳細はいまだ不明な点も多い. 咀嚼粘膜のコラーゲンは, 細胞間マトリックスでもっとも多い成分であり, 組織の構築や機能に重要な役割を担い, 組織の物理化学的性状を決定する大きな要因である. コラーゲンの代謝回転は緩やかであるため, アルデヒド官能基の濃度が正常範囲内であっても, 非酵素的反応を受ける機会は多く, さらに, 糖尿病下ではこの反応で加速される. メイラード反応の結果, 細胞の基質としてのコラーゲンにクロスリンクが起こると, 細胞活動へも影響が波及するものと推測される. そこで, 本研究は, 糖代謝異常時の咀嚼粘膜コラーゲンのグリケーションに関する基礎的資料を収集することを目的として, ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットにおける咀嚼粘膜のコラーゲンを抽出し, その生化学的特性をおもにメイラード反応生成産物の消長から検索した. 咀嚼粘膜の組織乾燥重量当たりのヒドロキシプロリン量は, 糖尿病群 (ストレプトゾトシン投与群) では対照群よりも約21%減少した. このように, 糖尿病下における細胞間マトリックスの変化は, コラーゲンの量的変化として強く表現される. ペプシン可溶化率は対照群で約82%であったが, 糖尿病群では約66%に低下した. コラーゲンのペプシン感受性の低下は, ヘリックス構造部位にクロスリンクの形成が増加したことを示している. 電気泳動的に観察した可溶性コラーゲンのIII/I分子種比率には変動が少なく, 糖尿病群では対照群に比べわずかに低下したにすぎない. コラーゲンのメイラード反応を初期過程および後期過程に分け, それぞれの生成産物の指標としてフロシンおよび蛍光強度を測定した. フロシンはHPLCにより保持時間3.5〜4.0分で検出され, 紫外部吸収280nm/254nmのピークの高さの比は3.9であった. 対照群および糖尿病群のフロシン量はともに血糖値との間に相関を認めず, 大きく分散したが, その平均値は対照群に比べ糖尿病群で高かった. コラーゲンの蛍光強度は370nmで励起し, 440nmで測定した. 蛍光強度と血糖値との間には, 対照群では相関を認めなかったが, 糖尿病群では正の相関を認めた. 蛍光強度は対照群に比べ糖尿病群で有意に高かった. これらの所見から, 糖尿病による高血糖の影響は咀嚼粘膜コラーゲンに波及し, そのグリケーションを促進することが示唆された. また, 糖尿病実験群の咀嚼粘膜コラーゲンに生じたメイラード反応後期過程生成産物の増加の意義は不明であるが, 糖代謝異常の生化学的特性としての一面を表わしているものと考えられる.
- 1992-04-25