ラットの実験的歯の移動に伴うペプチド含有神経線維の変化について
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概要
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矯正臨床において歯を移動させたとき, 2〜3時間後から数日間, 患者が痛みを訴えることが多い. このことから, 歯が移動する場合, 知覚神経が歯に加わった圧刺激を認識して中枢へ伝達しているのは明らかである. しかし, これらの神経が果たしている役割は, それだけなのだろうか. Weissらの発見以来, 神経は電気信号だけを伝える電線のようなものではなく, その軸索内を神経活性物質が流れ, 刺激や組織の損傷などにより, 神経末端から各種の神経活性物質が放出されることが明らかになってきた. 神経活性物質のうちで, calcitonin gene-related peptide (以下CGRPとする) とsubstance P (以下SPとする) は末梢の知覚神経にも多く分布し, その末端から放出された場合, 末梢の組織において血管拡張作用および透過性を亢進させる作用, 肥満細胞からのヒスタミン遊離作用, 白血球の活性化, 線維芽細胞の増殖促進作用, 骨代謝の調節など多様な作用を示す. そこで, 本研究ではCGRPとSPを含む神経線維が, 歯の移動時に免疫組織化学的にどのような変化を示すのかを知ろうとした. 方法 約200gのWistar系雄性ラットの上顎左側臼歯をWaldo法で移動させ実験側とし, 右側を対照側とした. 1, 3, 6, 12時間, 1, 2, 3, 7, 14, 21日後に約15μmの縦断凍結切片を作製し, 酵素抗体法 (ABC法) による染色および蛍光抗体法と神経全体を染めだす鍍銀染色を同一切片で行った. 結果 ABC法により, CGRPとSP含有神経線維の数は, 対照側と比較して歯の移動後6〜12時間では減少し, 3〜7日ではほぼ対照側と同程度になった. 減少した原因が, 神経線維の変性によるものかCGRPとSPの神経終末からの放出によるものかを明らかにするため, 含有神経線維数が多くの変化の判別が容易なCGRPについて, 蛍光抗体法と鍍銀染色を同一切片に施したものを, 対照側と6〜12時間後の切片で検討した. その結果, 蛍光抗体法により対照側でCGRPの存在が確認された部位は, 鍍銀染色により神経束の一部であることが確認された. これは, 神経束内にCGRP陽性線維が存在することを意味している. 6〜12時間後の切片では, 蛍光抗体法で陽性部位が認められない部位に多数の神経束が存在していた. これは, 神経線維束からのCGRPの消失, すなわちCGRPが終末より放出され分解されることを意味していると思われる. 結論 歯根膜中の神経線維は知覚を伝達するだけでなく, 歯の移動による刺激に反応して, 神経末梢から神経活性物質 (CGRPとSP) を移動後6〜12時間をピークに放出することにより, 歯の移動に伴う周辺組織の変化にも深く関与していることが示唆された.
- 大阪歯科学会の論文
- 1992-04-25
著者
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