腫瘍細胞の増殖能に対するヒアルロン酸の調節作用
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概要
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ヒアルロン酸 (HA) は, グリコサミノグリカンの一成分として細胞間に存在し, 細胞の移動, 浸潤, 増殖, 機能分化, 接着などの細胞機能と密接に関連することが知られている. しかし, 腫瘍細胞の増殖に及ぼすHAの作用については, 促進的に作用するという知見と, 増殖には関与しないという知見に分かれている. そこで, 本研究では, HAが腫瘍細胞の悪性増殖にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的として, 腹水型TS細胞のin vitroの培養系であるCTS細胞に各種濃度のHAを添加して, その作用を検討した. しかし, 腫瘍細胞に一定の刺激を加えて細胞集団の増殖能がどのように変化するかを検討するには, 刺激受容体である細胞がどのような増殖状態にあるかを規定する必要がある. そこで本研究では, まず, CTS細胞自身が調整したconditioned medium (CM) で細胞集団の増殖時期を調節できるかどうかを検討した. 5%ウシ胎児血清を添加したDulbecco's modified Eagle培養液 (complete DME) 中でCTS細胞を培養すると, 細胞は5日目まで活発な増殖を続け, それ以降は定常状態を示した. そこで, CTS細胞をcomplete DME中で培養して得た培養上清 (培養日数に応じてCM-0〜7) をCMとして, complete DME中で4日間培養したCTS細胞を48時間培養すると, 細胞は, CM-0〜4中では活発な増殖を続けたが, CM-5〜7中ではわずかな増殖を示すにすぎなかった. これらの結果から, 細胞増殖が活発な時期に回収したCMは細胞増殖能を高め, 細胞が定常状態にある時期に回収したCMは細胞増殖能を低下させ, CMによってCTS細胞の増殖状態を調節できることが明らかになった. 次に, このような効果を示すCMを利用してCTS細胞の増殖時期を変化させた細胞に, 0.01〜100μg/mlの濃度でHAを添加して48時間培養したところ, CM-0〜4によって増殖能が高くなった細胞は増殖が抑制され, その増殖抑制作用はHAの濃度が1.0μg/mlのときに最も強く現われた. また, この抑制効果はHA添加36時間後から著明に発現した. 一方, CM-5〜7によって増殖能が低下した細胞は増殖が促進され, この増殖促進作用はHAの濃度が100μg/mlのときに最も強く現われた. また, この促進効果はHA添加24時間後から著明に発現した. 以上の結果から, HAは, 活発な増殖を示す時期のCTS細胞に対しては増殖を抑制し, 増殖が活発でない時期の細胞に対しては増殖を促進することが明らかになった.
- 大阪歯科学会の論文
- 1991-10-25