糖尿病ラットの舌創傷治癒過程の微細血管構築について
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概要
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糖尿病患者における創傷治癒の遅延は, 細小血管症やアシドーシス, 糖・蛋白代謝異常などが関与するとされている. とくに, 細小血管症による血流の低下は, 侵襲に対する抵抗力の減弱とあわせて, 創傷治癒の遅延と深くかかわりあっていると考えられる. 今回, 著者は, 糖尿病性細小血管症の進行が, 糖尿病における創傷治癒の経過にどのように関与しているかを明らかにするために, ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットの舌に電気メスを用いて損傷を与え, Ohtaらの方法により微細血管鋳型標本を作製し, 創傷治癒過程における血管構築の変化を走査型電子顕微鏡を用いて立体的に観察した. 実験方法 ストレプトゾトシンを大腿静脈より投与することによって糖尿病を発症した. 糖尿病発症後6週, 16週, および20週の各時期に舌に損傷を与え, その後5日, 1週, 2週および4週を観察時期とした. 糖尿病発症後20週群では創傷付与後6週まで観察を行った. なお, ストレプトゾトシン非投与の健康なラットを対照群とし, 受傷後24時間, 5日, 1週, 2週, 4週と観察を行った. 実験結果 対照群では, 受傷後5日より創縁から既存の毛細血管ループが創中央へ傾斜し, この毛細血管ループから新生血管の形成が認められた. 受傷後2週では, 創面の新生固有層血管網からの新生毛細血管ループが一列に連続して配列していた. 受傷後4週では創面と創縁からの新生毛細血管は互いに吻合して, 連続した毛細血管ループを形成していた. 糖尿病発症後6週群では, 対照群と治癒過程はほぼ同様であった. 糖尿病発症後16週群では, 受傷後2週を経過しても創縁の新生毛細血管の形成は遅れ, 創面の新生固有層血管網の形成は部分的にみられるのみであった. また, この新生固有層からの新生毛細血管ループの形成が一部認められた. 糖尿病発症後20週群では, 受傷後4週でも創面の新生洞様血管は残存し, 創縁の新生毛細血管の傾斜角度は小さく, 両者に吻合は認められなかった. 受傷後6週で創面と創縁の新生毛細血管の吻合が形成され, 創面全体に新生毛細血管網が拡がったが, ループ形態は認められなかった. 以上の結果から, 創傷治癒経過は, 糖尿病発症後6週では対照群とほぼ同様であったが, 糖尿病発症16週以後では対照群に比べて遅延していることが明らかになった. 結論 糖尿病においては, 未分化間葉細胞の分裂や増殖の阻害ならびに他の細胞に対する分化や増殖への影響に加えて, 細小血管症の進行に伴う微小循環障害が発生し, 組織全体が新陳代謝の低下を起こして, 今回の観察でみられた創傷治癒の遅延をもたらすものと考えられる. すなちち, 糖尿病罹患歴が長期にわたると, 創傷の治癒は遅延する傾向にあり, 細小血管症の進行は創傷治癒に大きく関与することが示唆された.
- 1991-08-25
著者
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