咀嚼力の三分力動態に関する基礎的研究
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概要
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咀嚼の生理学的機構の解明やその機能を評価するため, 従来より, 下顎運動, 咬合接触関係, 筋電図, そして咬合力や咀嚼力の記録, あるいはそれらを組み合わせた分析が行われてきた. なかでも, 咀嚼力については, 重要視されているにもかかわらず測定した報告は少なく研究が立遅れている分野である. 咀嚼力の測定は, 咀嚼系の機能と生体力学特性を知るうえで, また, 補綴学的には支台歯への適正負担や下顎運動に協調した咬合面形態を模索するうえできわめて興味深い. これまでの咀嚼力の記録は垂直力に関するものが多く, 側方力を含めた3次元的な分析は極めて少ない. そこで, 今回3次元的な咀嚼力の測定を目的として三分力荷重計を試作しその特性について調べ, 十分に測定し得る精度を有することを確かめた. そして, 本荷重計を組み込んだ実験用義歯を, 下顎第一大臼歯欠損者3名に装着し咀嚼力を測定した. 実験1では, 硬さの異なるチューイングガム, すなわち, 市販の硬さのもの (Gn), 市販の硬さの1/2のもの (Gs), 市販の硬さの2倍のもの (Gh) を用いて, 食品の硬さの変化が咀嚼力にどのような影響を与えるかを検討した. 実験2では, レーズン咀嚼時において, 三点接触あるいはA, B, Cコンタクト付与時 (O0) の各咀嚼力を100%として, 削除にともなう咬合接触の変化により咀嚼力への影響を検討した. 咬合接触の削除条件として, 下顎第一大臼歯機能咬頭外斜面の咬合接触点 (Aコンタクト) のみを削除したとき (O1), さらに機能咬頭内斜面の咬合接触点 (Bコンタクト) の削除を加えたとき (O2), 非機能咬頭内斜面の咬合接触点 (Bコンタクト) のみを削除したとき (O3) の3条件を設定した. その結果, 実験1では, ゴムの硬さの増加で, 頬側力, 垂直力, 合力, 垂直角の各計測項目でGhは, Gs, Gnよりも有意に大きな値を示し, 実験2では, O1, O2, O3の近心力, 垂直力, 合力でO0より咀嚼力が減少し, O3で, O1, O2に比べて有意に大きな値を示し, コントロールに近かった. 被検者別の観察では, O1, O2, O3の咀嚼力が計測項目のほとんどでO0よりも減少したが, 削除条件によっては頬舌側力が著しく大きな値を示した. 以上, 実験1からは, 硬い食品で咀嚼力の, とくに垂直成分で増強されることが, また, 実験2からは, 咬合接触点の削除によって, 近心力, 垂直力, 合力はO0より減少し, O3では, O1, O2よりも咬合接触点の削除の影響は少なく, 下顎機能咬頭の内外斜面のA, Bコンタクトは咀嚼力発現に強く関与し, その重要性が示唆された. また, 被検者別の結果から, 削除の部位によっては, 咬合の平衡性が失われ, 歯にとって為害性の強い大きな頬舌側力の発現を誘起することが観察された.
- 1991-04-25
著者
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