歯牙移動時のラット歯周組織におけるfibronectinおよびvitronectinの局在に関する免疫組織化学的研究
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概要
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矯正治療による歯根の吸収が, 1927年にKetchamにより初めて報告されて以来, 歯根吸収について数多くの検討がなされてきた. しかし, その対策については未だ解決策が得られておらず, 今日の矯正歯科臨床においても依然として重要な課題のまま残されている. 歯根吸収は, 破骨細胞による骨の吸収と同様, 破歯細胞による直接性の吸収であり, これらの細胞の分化や活性がある種の因子により促進されることが知られている. しかし, これらの因子は歯の移動に伴う歯周組織圧迫部において, 破骨細胞の活性を高め, 骨吸収を促進する反面, 破歯細胞の活性も高め, 歯根吸収をも促進してしまう. 一方, 形態学的な研究により, 破歯細胞, 破骨細胞において吸収に直接作用する細胞上の部位は, 歯根面や骨面に直行してみられるruffled borderであり, このruffled borderは, 破歯細胞, 破骨細胞が骨表面, あるいは, 歯根表面に付着して初めて形成されることが知られている. 著者は, 歯の移動時の圧迫部において, 仮に, 破歯細胞の歯根面への付着を阻止できれば, 破骨細胞が活性化された環境下においても, 破歯細胞による歯根吸収をある程度阻止することができるのではないかと考えた. しかし, 破歯細胞, 破骨細胞の付着機構については, 現在のところほとんど知られていない. そこで, 今回, 細胞と基質とを結合するいくつかの細胞接着性糖蛋白質のうち, 血液中に存在するfibronectinとvitronectinに着目し, これら蛋白質と破歯細胞および破骨細胞の硬組織への付着との関わりを調べるため, 実験的に歯の移動を行ったラット歯周組織におけるfibronectinおよびvitronectinの局在について免疫組織化学的に検索を行った. 実験動物はWistar系雄成熟ラット (200〜250g) を用い, 左側上顎臼歯部を実験側とし, 第一臼歯と第二臼歯との間にゴム片を挿入して歯の移動を行った. また, 右側臼歯部は無処置として対照側とした. ゴム挿入後2, 4, 7日後に組織を採取, 通法に従ってパラフィン切片を作製し, 酵素抗体法 (ABC法) による免疫染色とhematoxyline・eosin染色を行い, 光学顕微鏡にてfibronectin, vitronectinの局在について検索を行った. Fibronectin, vitronectinは, ラット血漿から, それぞれaffinity chromatographyにより抽出を行い, 得られた抽出物を, それぞれ家兎に免疫し, ポリクローナル抗体を作製して免疫染色用一次抗体とした. 抽出物はSDSポリアクリルアマイド電気泳動による検定の結果, それぞれ純粋なfibronectinとvitronectinであり, 作製した抗体はWestern blottingによりそれぞれ抽出したfibronectinとvitronectinに特異的な抗体であることが確認された. 免疫染色の結果, 対照側に比べ, 実験側歯周組織圧迫部壊死部周囲にfibronectin, vitronectinの集積が認められた. とくに, fibronectinは, 破歯細胞や破骨細胞と思われる多核巨細胞の周囲歯根膜, および細胞間間隙の細胞膜に密接していることが観察された. 一方, vitronectinは歯根を吸収している破歯細胞と歯根表面との境界部, また, 骨を吸収している破骨細胞との境界部にspot状に局在していた. なお, 対照実験において非特異反応はまったく認められなかった. 以上の結果から, fibronectinとvitronectinは, ともに歯の移動に伴い圧迫部に集積し, 歯周組織の組織修復に関与し, とくに, fibronectinは破歯細胞, 破骨細胞の遊走における歯根膜との付着に, また, vitronectinは破歯細胞, 破骨細胞が歯根や骨を吸収する際の硬組織への付着に関与していることが示唆された. 今後, こういった破歯細胞, 破骨細胞の歯根や骨への付着機構とそのコントロールに関する解明が, 矯正治療による歯根吸収の解消につながることが期待される.
- 1991-04-25
著者
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